麗編 万物の霊長

そうだ。人間は、<善悪の概念>を作ったことで、本来は善も悪もないところにまで自分達の思う善悪を当てはめることを始めた。


自分達に理解できないものは<悪>として断罪するんだ。他国や他民族の習慣とか宗教とかな。


すると、一方的に断罪された方からすればそれはまさしく<理不尽>であり、結果、そちらからも<自分達を不当に迫害しようとする悪>と見做される。となるともう、お互いにとって、


<相手こそが悪>


なんだ。


こういう形でも、<悪>は錬成されるということだろうな。


それが分かってるのなら、最初から避けるのが吉というものだと思う。


こういう部分でも、感情を持たず善悪の概念を持たずただただニュートラルに合理的に論理的に客観的に思考することができるAIが間に立ち、軋轢をエスカレートさせないようにしてくれてるそうだ。


でもまあ、それでもなお紛争まで至ってしまうことがあるのもまた、人間(地球人)というものでもある。


冷静に合理的に論理的に考えれば別にいがみ合う必要のないところで譲れないと拘ってしまったりという形でな。


双方共に、


『譲歩するのは相手の方だ』


『正しいのは自分達の方だ』


と思ってるから折れることがない。引き下がらない。


『<相手こそが悪>だから、譲歩するのは悪に屈することだ!』


と思ってたりもする。


実に面倒臭い。


そうやっていがみ合うことでどれだけの損失が生じているか、合理的に考えることもしない。


で、紛争までやらかして、どちらもとんでもない損失を出す。


なあ、それが<万物の霊長>のすることか?


万物の霊長ってのは、


<とんでもない威力の武器を使えるサル>


のことなのか?


パパニアンでさえ、<引き際>ってものはわきまえてるぞ? サルやパパニアンよりも知能があるはずの<万物の霊長>様が何でそんなザマなんだ?


俺は悲しいよ。


でもまあ、今じゃそこまでやらかすのも一部の人間(地球人)だけになってきてはいるけどな。大多数は、紛争まで行かないうちに解決するようにはなってる。


そういう意味じゃ、ちゃんと進歩してるとは思う。


『人間(地球人)は宇宙の癌だ!』


みたいなのはただの<ネタ>になりつつあると俺は思う。


だからさ、ここ、朋群ほうむでは、先人達の残してくれた教訓をちゃんと活かしていきたいじゃないか。


サルでさえやらないつまらない意地の張り合いで、人間以外の生き物まで巻き込んで殺し合うとか、本当に勘弁してもらいたい。


幸い、俺はそこまでのことには巻き込まれてこなかった。俺が住んでた惑星への入植が始まってから千年以上、多少のいざこざはあったらしいが、本格的なガチの<戦争>はなかったそうだし、ちゃんとできるんだよ。


まあそれ自体が、<住み分け>でもあったんだろうけどな。


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