麗編 積極的に子を残そうとしない個体

なんていう風に長々と脇道に逸れたのは、やっぱり、俺もほんのことが気になってるからだろうな。


で、ほんは、コーネリアス号の乗員の墓地に隣接する形で用意した墓地に埋葬する。


こうすれば、かい達の糧にはならなくても、土中の小動物や微生物の糧として還っていくことになるし。


ほん……お疲れ様……


そして埋葬が終わると、かいが、少し離れたところから見詰めている様子がモニカのカメラに捉えられた。


あいつにとってはパートナーの一人であると同時に、母親的な存在だったみたいだしな。ほんは。




ほんを看取ったかいは、すぐに仲間の元に戻って普通にしていた。その姿は薄情にも思えるかもしれないが、群れのボスであるかいがいつまでも一つのことに囚われているわけにはいかないからな。


そんなかいを確かめて、俺もホッとしていた。


あいつは立派なボスだ。あいつの子で俺にとっては孫に当る息子のえんは巣立って合流した先でパートナーを得て子を成し、けんは、新しく群れに加わった雄をパートナーに迎えて子を成した。


ほんが前のボスと成した息子のゆうりんと番って群れを作り、かいとの子のこんは立派に成長して巣立った。


これまでにどれだけの子を送り出したのかは分かってないが、少なくともゆうこんが立派に育ってるんだから、すごいことだと思う。


あ、だからと言って、子を成してないあらたがダメだとか言うつもりはないぞ? うららと番って子を成すべきだとも言わない。あくまでそれぞれの選択の問題だ。


ほんの場合は、<子を成す選択>をしてそれでしっかりと育て上げてるんだからすごいなというだけで。


でも、正直、こんな風に気を遣わないといけなかった人間(地球人)社会というのも大変だなと思ってしまう。自分の選択に自分で責任を持てるなら、他人が結婚し子を成したことについたってそれを誇ってたって別に気にする必要もないと思うんだ。


直接あれこれ言ってきたんじゃなければ、他人が幸せに浮かれてるだけなら、わざわざ嚙み付く必要もないのにな。


ここに朋群ほうむ人の社会ができても、その辺りのことも考えなきゃいけないな。


結婚(という制度そのものができるかどうか分らんが)するもしないも個人の自由。お互いに余計な口出しはしない。


老後の世話はロボットがしてくれるから子供がいなくても心配要らない。


という辺りのこともしっかりしておかないとな。一度、


『結婚して子供を持つのが当たり前。それができなきゃ一人前じゃない』


って価値観が定着してしまうと、それを覆すのも容易じゃなくなるしな。


そうだ。自然においても、子を残せない個体というのは珍しくもない。と言うか、『残せない』じゃなくて、


<積極的に子を残そうとしない個体>


というもの自体が珍しくないんだ。


そういう個体が出ること自体が、そもそも<自然>なんだよ。


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