麗編 野暮

新暦〇〇三三年十二月十日。




そういった諸々もありつつ、俺は、うららあらたのことを見守った。


それと同時に、新しい集落候補地の選定のために、シモーヌやエレクシアと共に出発する。


シモーヌには、これまでに集めた資料の解析やデータの整理に集中してもらってたが、それらもある程度の区切りがついたことで、新たな調査も兼ねて同行する。


と言うか、ここの生物は、地球人にとっては全てが未知の存在であり、つまり、俺達の集落の周囲に目を向けるだけでも、一人の研究者が調べるにはおよそ手が足りないくらいなんだ。


だから、シモーヌが自分で調べながらも、ドーベルマンDK-aらが哨戒に出た時に、それまでのデータにない生物を見付けると採集して持ち帰ってくれて、シモーヌが分析する。ということを繰り返しているだけでも、いくら時間があってもまったく足りない。


で、これまでに、バクテリアや細菌や粘菌やウイルスだけでも千数百種類。ダニに似たものをはじめとした昆虫や小型節足動物が数百種類。植物数百種類。動物百数十種類が確認されている。


特に、バクテリアや細菌や粘菌やウイルスについては改めて脅威になるものがないか注意して確認してたからな。


幸い、すべて対処済みだ。しかも、ほとんどが、治療カプセルに頼らなくても、ここで入手できる薬効成分で何とかなるのも確認している。自然の中には、ほとんどの場合、しっかりとカウンターになるものが存在してるんだっていうのを改めて感じたよ。


もちろん、現時点ではカウンターになるものを見付けられていない細菌類もあるから、それについては、治療カプセルや<抗細菌・ウイルス剤>に頼りつつも、俺達自身が徐々に免疫を獲得していくことも心掛けている。


つくづく、


『<未知の環境>に適応する』


ってのは並大抵のことじゃないんだと実感する。コーネリアス号や光莉ひかり号に用意されていた<備え>なんてのはそれこそ最低限のもので、そういうものを持たずに未知の環境に踏み入るなんてのはまるっきり<自殺行為>でしかないわけだ。


何度も流行と衰退を繰り返しながらも今なおフィクションにおいては人気のジャンルだという<異世界物>の中に、<異世界転移>と呼ばれる現象があるらしいが、まったくの異世界にいきなり放り出されたら、まず、現地の病原菌の類で命を落としそうだな。


現地の人間にとってはそれこそ<ただの風邪>のようなものでも、免疫を持たない、対抗手段も持たないじゃあ、それだけでアウトだろうし。


その点、現地の人間として生まれるという<異世界転生>は、成長の段階で免疫を得たり、すでに現地の環境に適応した肉体に生まれ変わるということだろうから、なるほど理に適ってるのか。


まあ、エンターテイメントを標榜する創作に対してそんなことを考えること自体が<野暮>ってもんなんだろうけどな。


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