麗編 確率

ただ、その一方で、


『双方が愛し合っていれば実の肉親相手でも認めるのか?』


という問題も出てくる。俺は敢えて干渉しないことで消極的ではあるものの認める結果になったが、それ自体は『自然な成り行きに任せる』という意味では間違ってなかったと思うが、だからといってそれが当たり前になるのはどうなんだろうと思わなくもない。


人間(地球人)の世界では、たとえ、近親交配による遺伝子異常があったとしてもそれすら治療してしまえるものの、ここじゃ少なくとも現時点では無理だし、それが可能になるまでは数千年の時間が必要かもしれない。


まあ、知識だけはあるから、地球人がそこに到達したよりはずっと早く辿り着けるかもしれないにしても、だからといって十年や二十年でってわけにはいかないだろうし。


そもそも、俺がここに不時着して三十年かかってやっとアリスやドライツェンの実用にこぎつけたってのが現実だ。医療面では、いくら薬効成分を持つものをいくつか発見したといっても、治療カプセルがなければ精々が二十世紀から二十一世紀程度のレベルだろう。


癌や認知症さえ数日の治療で完治するとか、夢のまた夢だ。まあ、癌については、初期から中期程度までであれば治療カプセルで治療も可能だけどな。あくまで、


『治療カプセルを使えば』


だが。


実際、俺やシモーヌについても、定期的に治療カプセルに入ってリフレッシュを図ってるが、その際に、微細な癌が発見され除去されたというログが残ってる。


このレベルに到達しないうちは、遺伝子の異常などのリスクについては、やっぱり回避が可能なものについては回避するに越したことはないとは思う。


そんなわけで、近親婚については、原則、禁忌とする方向になるだろう。禁忌としつつも、本人達が真剣な場合は、事実上、止められない場合も出てくるだろうけどな。


まあ、それについては今後の課題だな。


少なくとも、あらたりんについては結局、子供ができなかったし、ほむらさいについても、データを蓄積した上で改めて解析してみたところ、


『妊娠の確率は限りなく低い』


と出た。


レオンとパルディアの間では妊娠も可能だったとはいえ、パパニアンとレオンの遺伝子の差異は、受精が成立するには大きすぎるようだ。


こんなことを言うと<フラグ>と思われるかもしれないが、いや、そんなものが成立するような数値じゃないんだよ。


『妊娠しない』


と断言しても問題ないくらいだそうだ。それこそ、人間とチンパンジーの間で子供ができるかどうかというレベルで。


俺とひそか達の間では子供もできたが、これについてはあくまで、


<ベースとなった人間との差異>


だから、<獣人同士の差異>とはまた別の話らしい。


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