メイガス編 姿

『<サーペンティアン>ってことは、もしかして、ヘビ……なのか……?』


俺が何気なく種族名を口にしただけでそこまで察してしまうというのも、さすがだと思う。これが例えば、<読者>や<視聴者>という形で、完全に外から眺めてるだけの立場ならそこに気が付いても、まさに当事者として渦中にいるとそこまで頭が回らないというのがむしろ普通なんじゃないかな。


とは言え、そこを察してくれたのは、その分の説明が省けるから俺としても助かるというのは、正直言ってある。


だから俺も変に言葉を濁すことなく、


「そうだ。伝説に登場する<ラミア>そのままの、上半身が人間、下半身がヘビ、という姿の種族だ。もっとも、彼女の場合は、あくまで<ヘビに似た生き物>というだけで、厳密にはヘビじゃない。クロコディアがワニじゃないのと同じかな。加えて、<種族>と言っても、現時点で確認されているのはルコア一人だ」


と告げる。その上で尋ねた。


「姿を見られるが、どうする?」


この問い掛けにも、


「……ああ……頼む。見せてくれ……」


ラケシスに授乳しながらきっぱりそう言った。


メイガスがそれを望むなら……


俺は、タブレットを通じて、


「ルコアの姿を映してくれ」


コーネリアス号のAIに指示した。


すると、モニカ(アリス初号機)と<あやとり>をして遊んでいるルコアの姿が、しち号機が掲げていたタブレットに映し出される。


「……!」


それを見たメイガスがハッとした表情になり、さらに、タブレットに向けて右手を伸ばした。左手では、しっかりとラケシスを抱きながら。


「メイガスに渡してやってくれ」


俺が指示すると、しち号機は手にしていたタブレットをメイガスに渡す。


「…クロト……」


受け取ったタブレットの画面に見入りながら、メイガスは自分の娘の名を口にした。やはり、外見上はルコアとよく似ているということか。と言うよりも、名前が違うだけでおそらくそれ以外は『同じ』なんだろうな。


けれど、顔形こそはクロトと瓜二つでも、このルコアは<サーペンティアン>だ。彼女用のチューブ状のボトムスから延びるのは、イルカの体に似た質感を持つ、ヘビのような長い体。決して<地球人>のそれじゃない。


「……」


そして、メイガスの両目から溢れる涙。


それがどういう意味のものかは、正直、俺には分からない。俺がメイガスでない以上は、分かるはずもない。『気持ちは分かる』などという嘘を吐きたいとも思わない。


第一、


『自分じゃない自分が生んだ、名前も違う、しかも伝説に出てくるラミアのような姿になった我が子を見る』


なんて経験をする人間がそうそういるはずもないんだから、『気持ちが分かる』方がむしろおかしいと思うよ。


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