メイガス編 様々な想い

「う……う…うぅ……」


不意に、メイガスが胸に抱いていた<ラケシス>が声を上げながら身をよじった。おっぱいの時間だ。


するとメイガスは、俺達が見ている前でも躊躇うことなくラケシスに乳を与え始める。


そして俺達もごくごく普通のこととしてそれを受け入れる。もうすでに散々見慣れてきた光景だ。今さらなんとも思わない。


ビアンカと久利生くりうも、未来みらいを育ててるきたるを見てきてるから、それこそクロコディアの子育ては身近な光景だと言えるだろうな。


授乳しながらも、メイガスは問うてくる。


「でもまだ、何か私に言わなきゃいけないことがあるんだろう……?」


ここまででも大概な話だったはずなのに、彼女は敢えて自分からそう切り出したんだ。


「シモーヌ。あんたは隠し事ができないタイプだ。言い難いことがあるって顔に書いてあるよ」


「あ…え…えぇ……!」


メイガスの言葉に分かりやすくシモーヌが動揺する。


そうだな。彼女がそういうタイプなのは、実は俺も察していた。だからこそ信頼できるというのもある。


「そこまで見抜かれているなら、確かに隠し立てしても意味がないな……」


錬是れんぜ……」


シモーヌが申し訳なさそうに俺を見る。しかし、そんな彼女に、


「いい。こういうのこそ俺の役目だ」


きっぱりと言ってメイガスに向き直り、


「実は、今、<別のメイガス・ドルセントが生んだ娘>を、コーネリアス号で保護してる。名前は<ルコア>。しかも彼女は、サーペンティアンという種族だ……」


単刀直入に告げさせてもらった。


「―――――!?」


これにはさすがに、メイガスも動揺が隠せなかったらしい。


「別の…私の……娘……? ルコア……? 確かに、<ルコア>も候補の一つだったけど……」


そうか。こっちのメイガスの娘も、<ルコア>と名付けられる可能性はあったのか。ほんの僅かなタイミングなどの違いで、そういう差異は生まれるんだな。


<別のメイガス・ドルセント>が生んだ娘とはいえ、もしかしたら名付けていたかもしれない名を持つ子の存在を告げられたメイガスは、今、自分が抱いている我が子<ラケシス>をじっと見詰めていた。もう二度と会えないと思っていたもう一人の我が子が、別の名前を付けられているとはいえ、別の自分が生んだとはいえ、ここにいる。


その事実に、頭の中では様々な想いが駆け巡っているんだろうというのは俺にも察せられた。


シモーヌも、ビアンカも、久利生くりうも敢えて口は出さない。かつての自分達の<仲間>を信じているんだろう。まず本人が目の前の事実を把握し、整理し、ある程度の結論を出すまで、余計な真似はしないということなんだろうな。


そして三分ほど思案した後に、メイガスは再び俺に問うた。


「<サーペンティアン>ってことは、もしかして、ヘビ……なのか……?」


そこに考えが至るというのも、さすがと言うべきか。


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