メイガス編 甘えっ子

モニカと<あやとり>をして遊ぶルコアは、楽しそうだった。正直、よくここまでなってくれたなと思うくらい、穏やかな笑顔を見せてくれていた。


それは、ビアンカやモニカやハートマンが頑張ってくれたからだろう。


『両親もいない未知の世界にサーペンティアンとして一人放り出される』


なんていうとんでもない経験をさせられて、普通でいられるはずもないからな。彼女が笑顔を見せられるようになるくらい、安心できる環境を、ビアンカとモニカとハートマンが作り出してくれてるんだ。


俺はただ、ビアンカ達がルコアのことに集中できるようにサポートしているだけにしか過ぎない。


しかし、笑顔を見せられるようになったルコアをメイガスに見せられたのは、よかったと思う。


そしてメイガスは言った。


「もしこの子がクロトと同じなら、すごく甘えっ子だと思う。本人が満足するまで甘えさせてあげないと、夜泣きするんだ。だから私とディルアが、交代で相手してあげてた。でも同時に、すごく人見知りをする子だから、甘えられるようになるまで時間が掛かると思う……」


そこまで言って、


「ビアンカ。どうかな? この子はちゃんと甘えられてるかい?」


と尋ねた。


するとビアンカも、


「うん。すごく甘えてくれてるよ。言われてみれば、最初の頃は夜中に何度もうなされたりしてたな。確かにその頃は私に対しても心を開いてくれてなくて、距離があった。でも今は大丈夫。一緒に寝てるし、我儘も言ってくれるようになった。レタスは好きなんだけど、なぜかキャベツの千切りと荒く切ったタマネギがダメで。キャベツはざっくりと手で小さくちぎったのなら大丈夫で、タマネギはみじん切りにして飴色になるまで炒めると大丈夫なんだけどさ」


と応える。


「あはは! なるほど。クロトも同じような好き嫌いがあったな。あっちにはレタスやキャベツやタマネギはなかったけど、うん、なんとなく系統は近い気がする」


メイガスがホッとしたように言う。


ビアンカがルコアのことを、<自分の娘>のことを、ちゃんと理解して受け止めてくれてるのを感じたんだろうな。


その上で、


「しばらくここで、クロト…じゃなかったルコアの様子を見させてもらうよ。それでどうするか判断させてもらう」


とのことだったので、俺も、


「分かった。必要なことがあったら言ってくれ。こちらも可能な限り対処させてもらう」


そう応じさせてもらった。


すぐにルコアに会いに行こうとしなかったのは、彼女も、今の自分が<母親>としてルコアの前に現れることが本当にいいのかどうかを案じたんだろう。それを見極めるために時間を欲したんだろうな。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る