メイガス編 運命を紡ぐ女神

「そっちに向かうまでの間に、私の独り言を聞いてくれるかな」


不意にメイガスがそんなことを言いだした。けれど、拒む理由もないし、道すがらいろいろ話を聞きたいと思っていたのは俺もなので、


「ああ、もちろんだよ。シモーヌやビアンカや久利生くりうも聞きたがっている」


と返した。


するとメイガスは、


「そうか……そうだよな……」


呟いた後で、語り始める。


「私が<記憶>を取り戻したのは、少なくとも五百日以上は前だと思う。そこまでは何日経っていたのか意識してなかったから分からないものの、記憶が戻って以降は三百日までは数えてたんだが、もう面倒臭くなってしまってね。こんな姿になった以上、元の生き方はできないと思ったしさ。


シモーヌやビアンカがローバーに乗って河を遡っていったのを見た時にはさすがに声を掛けたくもなってしまったけど、正直、今の姿を見られるのもきつかったし、今の暮らしにも慣れちゃってたから、声を掛けそびれちゃって。


でも、子供が危ないってなったらさ、つい……


やっぱ、人間は人間なんだなって思ったよ……」


しち号機と拾弐じゅうに号機の後ろを歩きながら、メイガスは、本当に独り言を呟くかのようにそう言った。


人間としての生き方を捨てたつもりでも、こうやって話をする機会があれば、いや、もう二度とないかもしれなかった機会を得られたとなれば、それまで抑えていたものが噴き出してしまうんだろうな。


彼女は続ける。


「最初はさ、ホント、何の冗談かと思ったよ。あの得体のしれない<何か>に取り込まれて<データヒューマン>になったって言われた時にはさすがに途方に暮れたしさ。


だけど、人間って、どんな状況でも慣れることができて、生活を営めるもんなんだね。仲間と協力して、ある程度の形になってきたら、思ったよりも快適で。


しかも、そうやって余裕が出てきたら、ディルアのことが改めて気になってきて、向こうも私のことを気にしてくれてて、結婚して……


たぶん、シモーヌとアレクが瑠衣るいを生んで幸せそうだったのも影響したんだろうな……それで私もさ、ディルアの子供が欲しくなって、クロトを生んで……」


と、そこまで聞いて、俺とシモーヌは、


「え…?」


と顔を見合わせてしまった。そして、


「クロト? メイガス、あなたの娘はルコアじゃないの?」


実際に顔を合わせてからいろいろ話すつもりだったことで敢えて黙っていたシモーヌが、思わず声を上げる。


「その声、シモーヌか…!? って、何言ってんだ。クロトの名前はあんたが考えてくれたんじゃないか。私達のこれからの運命を紡ぐ女神っていう意味でさ」


「……」


「……」


これは……


ディルア・ルバーンと子を生したところまではルコアの話と一緒だが、娘の名前が違う…!


なんてこった……ますますややこしくなってきたぞ。


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