ルコア編 異世界もの

人間社会にいた頃には、フィクションの人気のジャンルに<異世界もの>と言われるのがあったな。


<現実とは違う世界>


と言うか、まあ、


<普通の人間(地球人)社会とは別の社会が構築されている世界>


ということだな。つまり、まさに<ここみたいな世界>ということだろう。


そう考えると、シモーヌやビアンカや久利生くりうは、それこそ、


<異世界転生してきた人間>


ってことだ。しかも、あの<不定形生物の中の世界>がそもそも異世界と言えるわけだから、


『異世界に転生して、さらにまた別の異世界に転生してきた』


とも言えるのか?


なんだそりゃ! 波乱万丈すぎるだろ!?


しかもこの世界は、一応は、彼女達が元々存在したのと同じ宇宙に存在してるという……


なんとややこしい。


……


………


てか、本当にここ、俺達が元々いた宇宙……だよな……? 


夢色星団の、重力異常、空間異常、電磁波異常という無茶苦茶な場所にあるここが本当に俺達が元々いた宇宙に存在するのかどうかすら、自信が持てなくなってきた。なにしろそれを確認しようにも、連絡も取れなければこちらから人間が住んでいる惑星を観測することもできないんだ。夜、満天の星空に見えるそれは、すべて夢色星団内に存在する星々だということは分かってる。


俺達が知ってる星は、一つも見えないんだ。


……って、今はそこまで考えても仕方ないか。


ここがどうであれ、俺達はここで生きてる。そして幸せを掴んだ。それでいいじゃないか。


が、ルコアにとっては全てがこれからだ。ルコアは、<不定形生物内の世界>で生まれて育った。彼女にとっては向こうこそが<現実>であって、こっちはそれこそ<異世界>だ。


何の覚悟も準備も心構えもなく、いきなり、見知らぬ世界に<転生>させられたわけだからな。しかも、十代になったばかりの女の子が。


<異世界もの>のようなフィクションさえない世界から。


いわゆる<異世界もの>、特に、<異世界転生もの><異世界転移もの>と呼ばれるそれにおいては、転生や転移をするのはそれらのフィクションを知ってる者達がほとんどで、割とすぐ、自分の置かれてる状況を理解して適応しようとするらしい。


シモーヌやビアンカや久利生くりうも、子供の頃にはそういうフィクションにも触れていたことで、まったく予備知識もないままに巻き込まれたわけじゃなかった。


けれど、ルコアは違う。


さすがに<不定形生物内の世界>にそんなフィクションはなかっただろう。だとすれば、まず、今の状況を受け止めるところからってことになる。


……これは大変だぞ……


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