晴編 アンブッシュ

新暦〇〇三十二年十月十一日。




スコール的な激しい雨が降ることの多いここでは珍しく昨日は一日、しとしとした雨が降っていたが、今日は一転、カーッと晴れた。


しかし、標高が高いからか、受ける印象ほどは暑くない。ただ湿度が高いだけだ。


そんな中、せいは狩りに出かけた。動きも軽快で、調子は良さそうだ。


そして狩りに出て十分で、さっそく、木の幹を走り抜けようとしたネズミに似た小動物を捕え、貪り始める。


が、マンティアンの習性で、完全に動かなくなった獲物には興味が失せたかのように、まだ食べられる部分が残っているのに放り出して移動を始める。


で、せいが放り出した<食べ残し>を、他の生き物が食らう。


決して無駄にはならない。


その後も、せいは、立て続けに獲物を捕らえ、餌にありつく。実に好調だ。


だがその時、せいの気配がスッと変わる。タブレットの画面の中に見えているはずなのに、見失いそうになる。光莉ひかり号のAIが画像処理してくれてそれで辛うじて見分けることができた。


木の幹と一体化した<待ち伏せアンブッシュ>だ。


すると画面が切り替わり、見慣れた姿が画面に。


メイフェアだ。つまり、今、せいがいるのは、ほまれ達の縄張りということだな。


しかもメイフェアがいるということは、ほまれ達が拠点としている場所にほど近い位置。


前にも言ったと思うが、マンティアンは、パパニアンの群れが拠点としている辺りにはそれほど近付かない。あまりに近付いて警戒されて群れごと逃げられてしまっては元も子もないということを本能的に察しているからだろうと推測されている。


とは言え、目の前に明らかな<獲物>がいては見過ごせないだろう。


そう、メイフェアだ。


ここまでせいはメイフェアとは鉢合わせることがなかった。特に意図的に避けていたわけじゃないだろうが、まあ、メイフェアは基本的にほまれの傍をそんなに離れないからな。


ただ今回は、また、他の群れとの小競り合いがあったらしく、ほまれがボスとして出張ったことで、それに追従していたんだろう。だから遭遇してしまった。


母親のめいは元々メイフェアを襲わないし、父親のかくはメイフェアともイレーネともやり合って力の差を思い知らされているからもう狙わないものの、せいはまだそれを理解していない。


だから狙う。


もっとも、メイフェアの方にはとうに気付かれているが。こうやってドローンに姿が捉えられているのだから、それをメイフェアの方も受信している。


となると、せいがどんなに気配を消してみせても、まったくの無駄だった。


パパニアンが相手なら必殺の位置にまでメイフェアが近付いてきたところで襲い掛かるものの、


ペシッ!


とばかりに手で掃うだけで、


「!?」


せいの体が崩れ落ちた。


顎にいい角度で彼女の手の甲が当たったのだった。


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