晴編 過ちを繰り返さないように

せいの<強さ>は、マンティアンとしては実に平均的なものだと思われる。


エレクシアの体の使い方を学び取ったじんからさらにそれを学び取っためいと違い、体の使い方そのものがマンティアンとしては普通なんだ。


たぶん、母親であるめいよりも父親であるかくをより参考にしたからだろうな。


だから、めいは狙わないパパニアンやメイフェアも狙う。


兄であるえいとは正反対とも言えるな。えいは、母親であるめいに近い印象がある。が、一応は野生で暮らしているめいと違い、俺達の集落で人間と共に暮らすことを選んだが。


しかし、同じ両親の下に生まれた兄弟でありながら、せいは<マンティアンらしいマンティアン>として育った。


俺の下で育ったことでめい達の生態が大きく変わってしまうかもしれないと思ってたものの、どうやらそこまで心配する必要もなかったようで、むしろ安心する。レオンであるそうかい達も、


『それぞれ群れを率いつつもまるで一つの群れのように共に暮らしている』


という、レオンとしては特殊な生き方をしているものの、そうの息子のとうかいの息子のえんはそれぞれ、まったく普通のレオンとして生きていて、こちらもある意味では安心した。


これも矛盾だな。


命のやり取りをしないで済めばいいと思いつつ、命のやり取りが当たり前の彼らの生き方や在り方が守られることにホッとするんだからな。


だけど、やっぱりどっちの<気持ち>も間違ってないと思うんだよ。


『どの立場で考えるか?』


の違いだけで。


そんな自分を責めることもしないでおこうと俺は思う。


矛盾は、人間である限りどうしたって付きまとう。矛盾してること自体を<悪>だと考えると、おそらく人間の精神は破綻する。


『どっちが正しい』


じゃない。


『どっちも間違ってはいない』


で、そのまま受け止めなきゃいけないんだと思う。


揺らぎながら、ふらつきながら、それでも人間は生きていく。そういう生き物。


だが同時に、そんな自分を正当化するのもやめておこうと心掛けている。


なにしろ、それぞれの考え方は、立場が違えば『間違ってる』ようにも見えるだろうからな。


自分の血を受け継いだ者同士が殺し合うことを認めたくない立場と、


過剰に自然に干渉し根こそぎ変えてしまうことを認めたくない立場とではな。


まあそれについては、


『そもそも俺が子供なんか作らなけりゃそんな問題は生じなかった』


と言われてしまうとぐうの音も出ないわけだが。


だからこそ、自分を正当化するのはやめようと思う。


俺がここで子供を作ったのが正しかったのか間違っていたのかは、正直、分からない。


とは言え、その事実は今さら消えてなくならない。


ただ、明らかに『間違いだった』ってことにならないようには、努力していきたいと思う。


そのためには、かつての地球人がやらかした過ちを繰り返さないように伝えていかなきゃな。


俺の命がある限りは。


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