保編 将来有望

たもつみどりすばるの話に戻したはずがまたこれだ。


やれやれ……


まあそれはさて置き、三人の微妙な関係は、<緊張感>というのとはまた違う感じだったかもしれない。


なにしろ、すばるにしてみればみどりが勝手に懐いてきてるだけで、それ自体は別にどうでもいいし、たもつも、みどりが自分で自分のことを決められるようになるのならそれでいいわけで……


ただ同時に、メイフェアによると、


たもつ様自身、『とても複雑な気分だ』的なことはおっしゃっています」


とのことだった。


そうだなあ。それはあるかもしれない。


俺だって、妹の光莉ひかりが、もし、病気が治ってそれで他の男と付き合いだしたりしたらと思うと、


『正直、複雑な気分にはなるだろうな……』


とも思う。


だが、やはりすばるの方はまるでそういうことを意識していないらしく、


『勝負だ! とどろき!!』


とばかりにとどろきに挑みかかっていた。


心室細動を起こして死に掛けてからまだ十日足らずである。なんたるタフネス。


「があっ!!」


「ぐあっ!!」


しかもすばるとどろきも、それをまったく気にしてる様子もなくぶつかり合う。


まあ、体が問題なく動くなら気にする必要もないのかもしれないが。


二人の勝負は、力対力の真っ向勝負のようにも見えながら、やはり先日の<余所者の雄>のそれとは明らかに違っていた。相手の攻撃を正面から受け止めるのではなく、受け流すことで自分に有利な流れに持っていこうとする感じか。


とは言え、すばるのそれはまだまだ荒削りで、加えて感情に振り回されている傾向が見受けられるだろうか。


さりとて、とどろきの方も、ほまれに比べるといかにも<パワーファイター>的な印象はあるかな。


しかし、今ではほまれとそれなりにいい勝負をするようになっている。ほまれが肉体的にピークを過ぎたというのもあるとしても、間違いなく次のボス候補の筆頭だというのも感じる。


さらに今では、結構、群れの仲間のことを気遣ったりするし。


先日の一件でも、<余所者の雄>に背後から不意打ちを食らわすような真似をしたのも、すばるを守るためだったようだ。すでに完全に勝負がついていたにも拘らずすばるにとどめを刺そうとしたことがとどろきの怒りに火を点けたらしい。


が、そのとどろき自身、己の一撃でグロッキーになってた相手をそのままボコボコにしたんだから、あまり向こうばかり責めることはできないかもしれないけどな。


だから俺も、メイフェアに止めてもらったというのもある。


そういう精神的に未熟な部分もありつつ、とどろきも成長している。そしてとどろきが成長できたのは、すばるという将来有望な後輩がいたからというのもありそうだ。


とどろきすばるが仲間に加わることを許したほまれがそこまで見越していたのかは分からない。ただ、間違いなくいい方向には進んでるんじゃないかな。


その一方で、ほまれの実の息子であるたもつは、ボス争いには興味がなさそうだったが。


もっともそれも、いつまで経っても自分に甘えてくるみどりのことが気になってというのもあるのかもしれない。


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