來編 念には念を

なお、普段は水中で暮らすきたるは、当然のように様々な細菌に曝されている。きたる自身は非常に高い免疫を持つことで基本的には大丈夫だが、人間と同じ免疫力しか持たない久利生くりうについてはその限りじゃない。


と言うわけで、久利生くりうには早々にコーネリアス号に行ってもらって、そこで治療カプセルに入ってもらい、メンテナンスを行った。


コーネリアス号に搭載されている治療カプセルは、光莉ひかり号のそれに比べれば二千年以上の技術格差はあるものの、取り合えずここでの主だった細菌やウイルスにも対応できるのは確認できてる。


結果、この時の久利生くりうも、そのままだとちと危なかったかもしれない細菌に感染していたものの、医療用ナノマシンがそれを弱毒化してくれたことで容易に免疫を得ることができたようだ。


あかりはともかく、ビアンカに感染させるとマズいので、久利生くりうきたるを抱く度にこうやってメンテナンスを受けてもらうことになっている。


面倒だが、まあ、子供ができればきたるは求めてこなくなるはずだ。しばらくの辛抱だろう。


それでも、念のため、ワクチンも用意はしている。


惑星プラネットハンターである俺の宇宙船である光莉ひかり号もそうだし、殖民用の惑星を探査するのが役目だったコーネリアス号も、様々な細菌やウイルスに対処するためにワクチンを生成する設備を備えてるからな。


あまり特殊なものまでは対処は難しいが、幸い、ここまで確認できている範囲なら対応できているし、特に注意が必要なものについてはすでにビアンカを含め全員にワクチン接種も済んでいるし。


だからこうやって呑気に暮らせているというのもあるんだ。まあ、アラニーズであるビアンカは元々きたるには及ばないもののかなり免疫力も高いが。


その上で、念には念をということだな。


でないと、猛獣に襲われる前に感染症で死ぬ可能性だって高い。こういうところでは。


ちなみに、現場で作ったワクチンはそのまま市場に流したりしたら違法になる。承認済みのワクチンには必ず識別番号が付けられてて、チェックされるんだ。当然か。現場でのワクチン生成はあくまで緊急の処置であって、安全性が完全には担保されないからな。


とは言え、そのデータを医薬メーカーに譲渡すればそこで正式に試験もされて、承認を受けることも多い。実際、新規の植民惑星に関係するワクチンの多くはそういう形で作られるそうだ。


サンプルを持ち帰ってから作るというのでは、その分だけ時間もかかるし手間もかかる。もっとも、その時間も手間も、今じゃ一部の特殊な細菌やウイルスを除いて、専用の装置が全自動で数日で作ってくれるから、あくまで緊急性を要する場合での話だが。


何にせよ、俺達が無事にいられてるのもそのおかげ。


まったく、科学技術様々だよ。


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