來編 スタートライン

新暦〇〇三十二年五月十二日。




翌朝早々、きたるは目を覚まして、<家>に入っていった。


そして、


「ガアッ!!」


と吠えて、久利生くりうに縋り付いてまどろんでたビアンカを叩き起こし、


「ガアッ! グアッ!! グアアッ!!」


すごい剣幕で掴みかかって、彼女を裸のまま外へと蹴り出した。


ちなみに、この時のビアンカの格好は、<裸>と言っても人間部分だけで、アラニーズとしての本体部分の服は着たままである。それでも問題なく愛し合えるしな。


なんにせよ、どうやらいい一時ひとときを過ごせたようだ。


「ごめん! ごめんって! きたる…!」


怒るきたるに謝っていたビアンカは、なんだかんだと笑顔だったそうだ。


<想い>を遂げられて、心に余裕ができてたんだろう。


よっぽど久利生くりうに丁寧に愛してもらったに違いない。


で、久利生くりうの方はビアンカに続いてきたるという連戦になるが、すまん、これもここの雄の宿命だ。おとなしくきたるに食われてやってくれ。


性的に。


一方、あかりの方はと言うと、そんなビアンカときたるの様子をテントから顔を覗かせて確認して、にんまりと微笑んだのだという。


彼女も久利生くりうのことは好きだが、それ以上にビアンカときたるのことが大事だった。だからまず、二人が満たされてくれなければ意味がない。


自分は、二人が満たされてからでよかった。


それはある意味、


<ハーレムを構成する雌>


としては自然な姿だったのかもしれない。決して、


『男にとって都合がいい』


それじゃなくて、


<群れのまとめ役の雌>


としての、な。


そういう雌を味方につけてこそ、雄はハーレムを維持することができるんだろう。


なにしろ、一対一では確かに雄の方が強いことが多いものの、複数の雌が一度に、しかも雌同士連携して襲い掛かれば普通に雄だって負けることもある。


つまり、雌に認めてもらえなければ雄はハーレムを維持できないんだ。


これはれっきとした事実だよ。


そして雌は、利口でなければ良い雄を捉まえることができない。


この辺り、ひょっとして人間は失ってしまっているのかもしれないな。


親の俺が言うのもなんだが、あかりは実に<利口な雌>だ。


彼女ならきっと上手くこのハーレムを切り盛りしていってくれると思う。


で、きたるに裸で家から追い出されたビアンカに、ローバーに積んであった予備の服を手渡しながら、


「どう? 久利生くりうはちゃんと愛してくれた?」


あかりの問い掛けに、ビアンカは真っ赤に頬を染めながら(元々が透明なので実際には顔色は変わらないが、完全に照れた表情だったそうだ)、


「うん……」


と頷いたんだと。




まったく。いろいろやきもきさせられもしたものの、これでなんとか収まるところに収まったということか。


ただし、前にも言ったが、結婚というやつはあくまでスタートラインに過ぎない。彼女らの関係はここから本当に始まるんだ。


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