來編 デスロール

正直、こういう時はエレクシアがいてくれると、


『絶対にどうにもならない力の差』


ってものを見せ付けてくれるので逆に相手も引き易いんだと思う。


猛スピードで走るトラックに生身で突っ込む人間が、普通はいないように。いたとしてもそれは結局、命を捨てるためだから、死ぬと分かっていてすることだろうしな。


その点、生きることが目的のヤツなら当然『逃げるが勝ち』を選ぶだろう。


が、生身のあかりきたるはそこまで力の差がない。モニカもハートマンもグレイもドーベルマンMPMも、エレクシアほどは圧倒的でもない。


だから、狂乱状態にあるとそれこそ何とかなりそうな気がしてしまうのかも知れないな。


でも、残念だがどうにもならんぞ。あかりきたるはそのうち疲れるだろうが、モニカもハートマンもグレイもドーベルマンMPMも、給電が途絶えない限りスタミナは無限に近い。


オオカミ竜オオカミにはその知識はないからなあ……




などと俺がそんな心配をしている中でも、きたるはもはや怪獣のごとく大暴れしている。


首筋に喰らいついて振り回し、近付くものは尻尾で叩き伏せる。


子供の頃、ひかりと遊んでくれてた『お姉ちゃん』の面差しは欠片もない。ただただ凶暴な<獣>だ。


正直、敵に回したら生身では遭遇したくないタイプだよ。


そんな中、きたるは、オオカミ竜オオカミを捕らえたまま、川に向かって走り出した。相手が力一杯地面を踏ん張って抵抗してもお構いなしに引きずっていく。


おそらく、自分にとって最も有利な水中へと引きずり込んでトドメを刺すつもりだろう。


そういうところはまさに<ワニ>だな。


喰らいついたオオカミ竜オオカミをぐわんぐわんと振り回しつつ、きたるは川へと入っていった。


水深は膝までくらいしかないが、それでも陸生生物にとっては致命的な悪条件なのは間違いない。


そしてクロコディアにとっては、まさに自身の能力を何倍にも引き上げてくれるという、いわば、


<魔法のフィールド>


だ。


川に入った瞬間、きたるの動きが明らかに変わる。


さらに早く、さらに滑らかに、さらに力強く。


その上できたるは、オオカミ竜オオカミの首に喰らいついたまま、猛然と自身の体を回転させ始めた。地球でも、ワニが得意とする必殺の、


死の錐揉み回転デスロール


である。完全に決まると逃れる術はないという。


実際、この時のオオカミ竜オオカミも、何とか逃れようとしてか手足や尻尾は動かすものの、事実上、成す術なく翻弄された。


俺はモニカやハートマンの好感度カメラの映像で見ているからはっきりと分かるが、肉眼では、闇の中でただただ激しい水音が響いているだけだっただろう。


それはとてつもなく恐ろしい様相だったに違いない。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る