來編 何度でも撃退すれば

きたるによる<死の錐揉み回転デスロール>は、クロコディアを見たことがなかったオオカミ竜オオカミ達にとっては相当なインパクトがあったようだった。


明らかに空気が変わる。


狂乱状態だったところに冷や水を浴びせられた感じだろうか。


そして、攻撃が止む。


「お……っ!?」


あかりはそれを察して、距離を取った。彼女にしてみれば、オオカミ竜オオカミが引いてくれるのなら追撃する理由もない。


襲ってくるのなら何度でも撃退すればいいだけだ。


オオカミ竜オオカミの群れを全滅させたところで、空いた縄張りに他のオオカミ竜オオカミの群れやレオンの群れが入り込んでそれがまた襲ってくるかもしれない。


それよりは、自分達が非常に強敵であることを知っている群れが残ってくれる方が、むしろ都合がいい。


これはれっきとした<生存戦略>だ。<優しさ>でも<博愛主義>でもない。追い詰めすぎても逆にリスクが増す。俺達はそれを知っているだけに過ぎないんだ。


そしてあかりもそれをよく分かってる。本能で。


だから深追いはしない。


モニカやハートマンやグレイも、戦闘行為が中断すれば、警戒はしててもすぐに射撃をやめる。


きたるも、川に引きずり込んだオオカミ竜オオカミに止めを差し、それを咥えて仁王立ちになった。他のオオカミ竜オオカミを睨みつける。


『今度はお前らがこうなる番だ…!』


とでも言わんばかりに。


しかしオオカミ竜オオカミ達にはもう、戦意は見えなかった。おそらくきたるにやられた奴は群れの中でも相当な強さを誇ってたんだろう。それがまったく歯が立たなかった事実を冷静に受け止められるようになったようだ。


幸い、ボスは無事だったようで、


「ギイッ!」


と一声上げると、オオカミ竜オオカミ達は去っていった。


決して被害は少なくなかっただろうが、まあ、ボスが無事なら群れの立て直しも容易だろう。


結局、最初にきたるに喉を食い破られたのと、デスロールの餌食になったのの二頭が犠牲になった形か。


で、オオカミ竜オオカミが去ったことを確認したきたるは、自分が仕留めたオオカミ竜オオカミをすぐさま貪り始めた。


当然だな。


それに、こうやって<餌>になるなら、死んだオオカミ竜オオカミの命も無駄にはならない。


勝った方が負けた方を食う。


自然な光景だ。


これが、あかりきたるが負けていたら逆になっていただけに過ぎない。


で、あかりは、きたるが最初に倒した方のオオカミ竜オオカミを、


「んしょ、っと…!」


と抱え上げ、


「これ、持って帰っとくから、後で食べたらいいよ」


と、きたるに告げた。


「……」


きたるも、あかりが何を言っているのかなんとなくは悟ったらしく、獲物を抱えて川を渡る彼女にギロリと視線を向けただけで何も言わなかった。


ま、一度に食べ切るには一頭だけでも多いというのもあるんだろう。


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