來編 本当の僕
普通のフィクションとかなら、ここで
しかし、現実はそう上手くはいかない。俺にとってもそうだが、
日常的に用意できる何かでAIの設定を書き換えてしまえるようじゃ、今の人間社会は成立していない。悪意を持ってどうにかしようと考えてもそのための設備が必要というのが事実なんだ。
誰にとっても簡単にはままならない。それは当のAI自身にとっても。
これによって安全が保障されるわけだ。
だが、彼は、『その条件を飲もう』と言ったすぐ後に、
「あ…いや、前言撤回する。
ありがたい申し出だけど、辞退させてもらうよ」
と。
「……え?」
「え?」
思わぬ返答に、俺とシモーヌだけじゃなく、
「理解できません」
エレクシアまでそんなことを口にした。彼女の予測じゃ、
無条件にコーネリアス号に住んでいいと提案したら、自分が、人間の法律上は<人間>でなくコーネリアス号についての権利も有しないことを承知してる彼はそれを承諾しないことは予測されていた。だからわざとこういう手順を踏むことで、人間である俺の支配下でコーネリアス号を自由にしていいというのを受け入れるだろうと踏んでたんだ。
彼としても、
なのに……
「どういうことだ? 軍人としてのプライド、か? 施しは受けないとか……?」
咄嗟にそんなことを訊いてしまう。
けれど彼はフッと微笑んで、
「いや、プライド、というのとは違うかな。ただ単に僕が弱い人間だからだよ」
と返した。
「弱い…?」
「ああ、僕は、人間社会の中にいた頃に周囲が思っていたほどは強い人間でもなかったし、合理的な人間でもないんだよ。ただ、そうあろうと振舞っていただけだ……
でも、正直、僕にとっては大変でね。本音を言わせてもらえば辛かった。
だけど、今の自分になって、<人間>という枷から解き放たれて、軍人でもなくなって、<
だから、さ」
今の自身の本音を吐露しつつ柔らかく
「
シモーヌが問い掛けるように彼の名を口にする。
でも、俺にはなんとなく分かってしまった気がした。彼の言いたいことが。そして問う。
「コーネリアス号にいるのが辛い、か……?」
妹を亡くした俺が人間社会にいること自体に耐えられなくなって、借金を抱えたことで思い切れて、<
俺の問いに彼は苦笑いを浮かべながら頷いた。
「たくさんの仲間を喪ったコーネリアス号で平然と生きていられるほど、本当の僕は強くないんだ……」
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