來変 譲渡

きたるはすっかり久利生くりうに懐いてしまって離れないから、このまま話をさせてもらおう。


で、


久利生くりうの<ハーレム>ができるに当って、コーネリアス号を明け渡したしたいんだが、どうだろう?」


俺は、単刀直入に切り出した。


彼を相手に下手な小細工や駆け引きをしたところで俺が勝てる道理がまったく見えないから、余計なことは一切無しだ。


すると久利生くりうは、


「……僕達にとってはこの上ない話だけど……」


そう言いつつ、


「それで、条件は……?」


と切り替えしてきた。


AIやメイトギア達は、久利生くりうもビアンカも、あかりのことさえ<人間>とは認めていない。だからいくら、


『コーネリアス号を明け渡す』


と俺が言ったところで、コーネリアス号のAIはそれを認めない。あくまで現在のコーネリアス号を管理する権限は、仮とは言え俺にあり、久利生くりう達はその下でのみコーネリアス号内を自由に行動できる。


あるじである人間がいない状態で野生の動物が入り込んで勝手に住み着くのとはわけが違う。さすがに久利生くりうも完全にそれをわきまえている。


だから、


『コーネリアス号を好きに使っていい』


とする上で必要となる<条件>を確かめてきたってことだな。


本当に大した男だよ。


ま、彼なら十中八九そう言ってくるとエレクシアも太鼓判を押してくれたから提示できた話でもある。


そもそも、アドバンテージは俺の側にある。久利生くりうがいくら優れた軍人として策を弄しても、『人間ではない』今の彼にAIを味方につける手立ては何もない。人間社会においてもAIが持つ大原則を書き換えることは、終身刑も有り得る重罪だ。それを覚悟の上でなら、技術的には不可能じゃない。


もっとも、以前にも話したと思うが、そういう大前提を蔑ろにした違法なAIは、人間を守ろうとするAIが支配する今の人間社会じゃ即刻異物と見做されネットワーク上からも排除されて、何もできなくなってしまうんだ。


この現実がある以上、この提案はまったくもって対等な立場のものじゃない。不平等極まりないものだ。


それを承知の上で、俺は言った。


「そちらの生活に支障が出ない範囲で、コーネリアス号の全機能をこれまでどおりこちらも利用できること。それが条件だ」


立場が対等じゃない以上、それは<条件>と呼ぶのもおこがましい茶番でしかない。けれど、敢えてこの茶番が必要だと俺は思ったんだ。


「分かった。その条件を飲もう…」


久利生くりうはすべてを察したようにニヤリと微笑みながら応えてくれた。


こういう風に言わないと久利生くりうはコーネリアス号に住むことを承諾しない可能性があると、エレクシアが分析したんだ。


自分が人間じゃなくてコーネリアス号に対して何の権利も持たず、AIを味方に付けられないことを承知してる彼ではね。


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