來編 即断即決

ビアンカは、アラニーズである自分のことをまったく特別視しないあかりのことが好きだった。


人間がよく使う<親友>とかいう言葉では言い表せない、それ以上の、うん、やっぱり<家族>という言葉がたぶん一番近い感覚で見ていたと思う。


とは言え、同じ男性のことが好きになったとなると、やはり心中穏やかじゃないんだろうな。


肉体が変化し、あくまで野性が基準になるここの環境に適応してきたからって、機械じゃあるまいしそうそう完全には切り替わってしまわないのも分かる。


なので、精神的に不安定になるのも当然だな。


この辺りについては、当事者が時間をかけて落としどころを見つけていくしかないだろう。


あかりも、別にビアンカから久利生くりうを奪い取りたいわけじゃない。野生のメンタリティに従って、久利生くりうをシェアしたいだけだ。


アクシーズは、同じ相手とずっと添い遂げる事例もありつつ、りょうの件でも分かるとおり、他の相手と子供を作ったりすることもある。これは完全に野生の<種>としての生存戦略だから、人間がそれについて善悪を論じることは、自然に対する冒涜だと思う。


そして、ここに誕生することになる<人類>が婚姻についてどういう形式をとるかも、<朋群ほうむ人>自身が決めていく専権事項だ。余所者である俺が口を挟むことじゃない。


とは言え、もし、久利生くりうがビアンカを選んであかりがフられてたとしたら、その時は俺が慰めようと思う。


が、あかりだったら、


『あ、そう。じゃ、しょうがないね』


とかあっけらかんと受け入れそうな気もするが。何しろ、野生の場合は、『脈がない』と見ればとっとと次に行くのが自然な流れだ。自分を受け入れてくれない相手に執着してたら子孫を残せるチャンスがそれだけ減るだろう。そんな非合理的なことはしていられない。


まあ、他に相手がいない場合は拘るしかないだろうが、その辺り、あかりは割とドライなようで、


「子供は生めたら生みたいけど、ダメだったら別にそれでも構わないよ~」


とは言ってたな。


この辺りは、人間である俺の影響を受けてるのかもしれない。


ただ、久利生くりうを巡っては、ここに来てきたるも参戦したわけで、複雑になってきたなあ。


もっとも、きたるについてはあかりよりもっと割り切ってるはずだから、完全に離れて暮らして顔を合わせないようにすれば諦めるのも早い気がする。


子供達も皆巣立って、きたるとしては『次の子を』というのもあるんだろう。ちょうどそこに久利生くりうと出逢ったから火が点いちゃった感じか。


いやはや、さすがは野生。即断即決だな。


そういう意味ではビアンカが一番、ウジウジ悩むだろう。これについても、シモーヌやセシリアにサポートを頼まないとな。


ビアンカは俺にとっても娘みたいなものではあるものの、本当に<娘>ってわけじゃないから、俺があんまり首を突っ込むのも変だろうし。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る