來編 承諾
コーネリアス号の一部施設については、ドーベルマンDK-aをはじめ、アリスやドライツェンを作るために解体して再資源化させてもらった。宇宙船のだからな。ただのパーテーションも、万が一の際の隔壁の役目もあるから、それなりの材料で作られてるんだ。
シモーヌもビアンカも、もうすでに宇宙船としての機能を失ったコーネリアス号については、こうやって利用することを承諾してくれてる。
そして
「ああ、僕は過去には拘らない。これから生きていく者達のためにこそそれらは役立てるべきだと思う」
と言ってくれた。
何度も言うように厳密には<人間>として認められることのないシモーヌやビアンカや
合理的な意味では必要のない墓を建てて死者を悼むのと同じような話だと思う。気分の問題だよ。
それを疎かにすると軋轢が生じるんだってことは、人間の歴史が証明してきてる。
なら、俺も、そういう部分を大事にしたいと思うんだ。
その一方で、モニカやハートマンの手によってコツコツと復元している設備もある。映像コンテンツを上映するための<映写室>や、<公園>と呼ばれるドーム状のスペースなど、<コーネリアス号乗員達の憩いのための施設>だ。人間が増えてくると活用できる可能性があるからな。トレーニングルームについても、必要であれば新たに設置する用意はある。
が、同時に、万が一、強行に<コーネリアス号に対する権利>を主張してくる者がいた場合には、
『俺一人がAIにも認められる人間である』
ということを最大限に活かして、コーネリアス号のAIもセシリアもイレーネも俺の側に付けて対応させてもらう準備はしてある。
メイフェアだけは<感情>が再現されていることで、かつて、
『<シモーヌの姿が再現された
事実もあることから、正直、どうなるか分からないという部分もありつつその場合についても想定は十分に行ってきた。最悪、エレクシアの手でメイフェアを破壊することも含めてな。
もちろん、そんなことはあってほしくない。しかし、あらゆる可能性は否定できないんだよ。
『友好関係にあった隣国が突然侵略してくる』
なんてことも、だ。
建前上とはいえ戦争は放棄しても、死刑制度は廃止されても、<可能性>までは無視しない。
今の人類も、そうなんだ。
もっとも、それ自体が、AI頼みな一面もありつつもだが。
AIは人間のように感情に流されない。油断もしない。可能性があるのならそれについての想定も淡々と行う。人間を守るために。
<人間>と、<人間以外>について、明確に区別を行い、常に必ず人間を優先する。人間以外を守るのは、人間が確実に守られてからだ。
その大原則は、揺るがない。
ただし、だからと言って人間以外を蔑ろにもしないけどな。
そんなことをしたら今度は<人間以外>との戦争にもなりかねない。
わざわざそうやって諍いの種を作る必要もないだろう。
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