來編 帰還

新暦〇〇三十二年五月七日。




翌日。きたるはまだ治療カプセルの中だが、久利生くりうとビアンカとあかりとイレーネは、コーネリアス号へと向かうことにした。


まあ、むしろきたるが寝てるうちに片付けてくれた方がいろいろと楽だろう。


そんなわけで、今度はスムーズにコーネリアス号まで辿り着けた。


「これは…さすがに二千年も経つと、ということかな……」


びっしりと植物に覆われて遠目にはただの<小山>にしか見えないコーネリアス号に、久利生くりうは苦笑いを浮かべていたそうだ。


けれど、実際に到着した時には、脇に設けられた墓地を参り、深くゆっくりと一礼した。


あの不定形生物に取り込まれた乗員らについてはある意味では『生きている』とも言えるかもしれないものの、それ以外の乗員達は完全に亡くなっているわけで。


と言っても、もし寿命を全うできたとしてもさすがに二千二百年以上前ともなれば、もう誰も生きてはいないけどな。


そして、


「自分の墓に参るというのも、奇妙な気分だね」


自身のオリジナルである<コーネリアス号乗員・久利生遥偉くりうとおい>の墓にも参り、また苦笑い。


シモーヌやビアンカはもっと複雑そうにしていたものの、久利生くりうはその辺り、割り切れてしまうようだな。


そんな久利生くりうを、そうかいりん達が遠巻きに見ている。


昼間なので基本的には休んでる時間なものの、さすがに見慣れないのがいると警戒はするか。


ただ、すっかり仲良くなったビアンカが一緒ということもあってか、警戒レベルはそれほど高くないようだ。


『なんかまた変なのが来た…』


くらいに思ってるだけかもしれない。


「おかえりなさいませ」


モニカ(アリス初号機)とハートマン(ドライツェン初号機)が声を揃えて久利生くりうを出迎える。コーネリアス号のAIには、シモーヌもビアンカも、基本的には本来の乗員に準じた対応をするように俺の方から指示してある。なので久利生くりうに対しても、同じだ。


「ただいま」


久利生くりうも、<今のコーネリアス号の住人>に丁寧に挨拶をする。


今日はあくまで久利生くりうの<帰還>が目的なので、ビアンカもさすがにそう達にべったりじゃない。彼に付き添ってコーネリアス号に入り、カーゴルーム横にある<分析室>の前で待機した。今のビアンカだと、出入り口が狭すぎて通れないんだ。


昨日、採取した様々なサンプルを手際よく分析器に掛けていく久利生くりうを、ビアンカはうっとりした様子で見てたらしい。


『らしい』というのは、あかりの証言だったからだな。イレーネはすぐにメンテナンスに入ったし。


そして分析を待つ間に、久利生くりうは、コーネリアス号の中を見て回った。


乗員達の個室がある辺りについてはセシリアが掃除しただけであまり触れていないものの、トレーニングルームや食堂などについてはもう必要ないという判断の下、設備やパーテーションなどを解体して資源化し、様々なものを作ってきた。だからもう、今では見る影もなかったのだった。


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