來編 ボスの座

その辺の<思惑>もありつつも、俺は、基本的に久利生くりうの自由にさせようと思っていた。


それができるのは、エレクシア達がいてくれるからだな。


俺が正式な主人であるエレクシアはもとより、かつて<オリジナルの久利生遥偉くりうとおい>が仲間だったとはいえ、イレーネにとっては今の彼は『人間じゃない』から、そちらに与することもない。


人間の場合は言いくるめられて転ぶことはあるにしても、ロボットを制御してるAIは、厳格な基準によってのみ判断する。そして人間がどれほど詭弁を弄してもその基準が揺らぐこともない。


メイフェアは人間の感情が再現されていたことからそれに振り回されてしまったりもするので、場合によっては彼に丸め込まれたりする可能性も否定しきれないものの、その<感情>を失っているイレーネはそれに惑わされることもないしな。


同じく<感情>が再現されていないセシリアも、俺の承諾なく彼の命令を聞くこともないんだ。


普通のロボットにとって唯一にして明確な<人間>である俺の立場が揺らぐことはないのは厳然たる事実。これは光莉ひかり号もコーネリアス号も同じだ。


だから久利生くりうがどれほど<とんでもスペック>の持ち主であっても、力尽くで俺に対抗するのは不可能ではある。


ただし、AIとAIに制御されてるロボット以外はその限りじゃないんだよなあ。シモーヌやビアンカはもとより、ひかりあかりでさえな。あの超絶イケメンに道理を説かれたら懐柔されることだってないとは言えない。


が、同時に、俺としては、必ずしも<ボスの座>に対して執着があるわけじゃない。俺の代わりに責任を負ってくれるのがいるのなら譲るのもやぶさかじゃない。


そういう諸々を総合的に勘案して、成り行きを見守ろうかなという気分にはなってる。


加えて、単純に、久利生くりうがこれからどうするのかについて興味が湧いてきたというのもあるしな。


で、俺もエレクシアと一緒にアリゼドラゼ村に向かって出発する。運転はエレクシアに任せ、俺は久利生くりう達をモニターするとして。


すると、


「少佐が少佐のままでよかったです……」


ビアンカが呟くのが聞こえてきた。そのしみじみとした声色に、ホッとしてるのが伝わってくる。今の自分の姿を晒すのが怖かったと同時に、久利生くりうであれば受け止めてくれるという想いもあったんだろうな。そしてその通りだったことに安堵してるんだろう。


よかったな。ビアンカ……


俺も安心したよ。


その一方、


「こんなイケメンと付き合ってたとか、隅に置けないね~、ビアンカ~?」


はやし立てるようなあかりの声。


もう、何をやってるんだ、あの子は。


と呆れつつも、


「やだ、あかりったら、やめてよ」


そう返したビアンカの声の調子も決して嫌がってる感じじゃなかった。ちゃんとビアンカの様子も察しつつ場を和ませようとしてくれてるんだ。


我が娘ながら本当にいい子だな……


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る