來編 自分に厳しく

こうして<調査>に出ることになった久利生くりうは、<ビアンカ専用ローバー>に乗り込むことになった。


「これは、上手く作られたものだね」


真ん中にビアンカが座り、その両脇に助手席を設ける形になったローバーに、久利生くりうが感心したように声を上げる。


「はい。本当によくしてもらってます」


ビアンカが応えると、彼も嬉しそうに、


「そうか。それは本当によかった」


応えたそうだ。


シモーヌやビアンカがここにきた時と同じように、音声についてはモニターさせてもらうことを、久利生くりうには告げてある。


「当然の対応だね」


彼もそう言って快く承諾してくれた。こういう部分から地道に信頼を勝ち取っていくものだと彼も思ってくれているんだろう。


加えて、それなりに責任のある立場だったはずなのに、コーネリアス号に関する<権利>を主張してこないのは、自分が、


久利生遥偉くりうとおいのコピー>


だと考えているからだろう。コピーには、そのままでは何の権利もないからな。権利を発生させるためには厳格な手続きを経て司法判断を受けなきゃならないし。


そんな風に割り切れることがそもそも普通じゃないんだろうが、この辺りはシモーヌもビアンカも同じだったから、さすがは<惑星探査チーム>に選抜されるほどの人材だってことかもしれない。


まあ、実際、任務中もずっと記録は取られてただろうし、何より久利生くりうは、自分が指揮する部隊員に対して厳しく規律を守ることを要求する立場だったからこそ、自身も法や規律を遵守するように徹底しているんだろうなとは感じる。


こういう部分でも、他人にはルールなどを厳しく適用しながら自分は都合よく解釈して緩くしてもらおうとする人間は信用されないしな。


他人に厳しい人間ほど、それ以上に自分に厳しくなくてはいけないんだろうとは、俺も思う。


もっとも、俺は、自分にそんなに厳しくできないから、他人に対してもあまり厳しく接しないようには心掛けてるけどな。


軍人などの場合には、それこそ、部下に命を賭けることを要求しなきゃいけなかったりするだろうから、命令する側はなおさら自分に厳しくあるべきなんじゃないかって気もするし、久利生くりうの姿勢はまさにそれを体現してるのかもしれない。


ま、あくまで俺の印象だけの話だから、どこまで当てはまるかは、正直分からない。俺を油断させるためのポーズに過ぎない可能性も否定はできないが。


『さすがにそれは穿ち過ぎでは?』


と言われるかもしれないが、ここは油断してると一瞬で命を落とす世界だというのを俺は忘れないようにしてるだけなんだ。


寛ぐにしても、安心して寛げるように徹底した準備が必要だしな。


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