來編 ストレスフル

「エレクシア、久利生くりうは信用できるか?」


三人のやり取りを傍受しつつ、俺はエレクシアに尋ねた。メイトギアである彼女は、人間の声の調子や心拍や発汗や表情や仕草から人間の心理状態を見抜くことができるからだ。


これは本来、喋ることができなかったり、コミュニケーションを苦手とする人間に対しても適切なケアができるようにと与えられた機能だが、同時に、嘘を吐いていたり不埒な考えを巡らせていてもそれを見抜くこともできたりしてしまうんだ。


もっとも、相手のプライバシー等に配慮して、敢えてそれを誰かに告げることはしないってのが原則ではある。


人間に危害を及ぼすようなものでない限りは。


ただし、そうやって保護されるのはあくまで人間に限るというのもまた事実。エレクシアからすれば人間ではない久利生くりうのプライバシーを守る理由は彼女にはない。俺が訊かなければ黙ってるが、訊かれれば遠慮なく察知できたままを答える。


で、そんなエレクシアの見解としては……


「現時点でマスターにとって不利益になるような<企み>を目論んでいる兆候は見られません。そういう意味では嘘は吐いていませんし、敵対行動を取る可能性は低いでしょう。


ただ……」


「ただ……?


「ごく僅かですが緊張していることを窺わせる所見があります」


「緊張……?」


「はい。シモーヌとビアンカ以外の存在に対して、身構えているように見受けられます」


「そうか…まあ、そのくらいなら当然か。久利生くりうにとっても俺達がどういう存在になるのかまだ見極められていないだろうしな」


「そうですね。そういう意味での<緊張>だと推測します」


エレクシアの見解は、俺にとっても納得のいくものだった。特に、元々の仲間であるとも言えるシモーヌとビアンカ以外に対しては緊張しているという部分については、むしろ親近感さえ覚えた。何しろ、俺の目からは、何でもかんでも平然と受け入れてるように見えてちょっと怖いくらいだったしな。


でも実際には、彼にもそれなりに不安や緊張といったものがあるんだろう。機械的にそれを計測できるエレクシアの目は誤魔化しきれない程度には、彼も<人間>だったということか。


なら、単純に<ビアンカの想い人>として受け入れればいいだろうな。


でもなあ、本音を言わせてもらえば、自分より圧倒的に優れてる赤の他人と一緒に暮らすというのはなかなかにストレスフルそうだなって気もしてる。いちいち他人と比べるなんてのはしないようにしてきたつもりなんだが、嫌でも目に入る距離ってのはこれまでなかったからなあ。


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