來編 環境を整える

今のビアンカが久利生くりうに認めてもらえるまでに一悶着あった方が物語的には盛り上がるかもしれない。


けど俺は、自分達の人生を他人の慰み物にしようとは思っていない。もちろんビアンカの人生もだ。だからみんな幸せになってほしい。


と言うか、自分が幸せになるためには、他人も幸せでいてくれるのが望ましいんだよ。


人間ってのは、自分が不幸の中にいると他人を妬んだり恨んだり挙句の果てに、


『お前も不幸になれ!』


と言わんばかりに他人に八つ当たりもする。こうして不幸が再生産されるということは、すでに解明されている。そして、不幸の中にいる者の多くは、自分が不幸を再生産してることを気付かないし気付こうとしない。だから西暦が始まって六千年近く経っても、根絶はされていない。


業が深い。


もっとも、そんなことを言ってる俺自身、たぶん、自分でも気付かないうちに他人に八つ当たりもしてただろう。


だから、強く責めるつもりはないんだ。ただ、残念だなと思うだけで。


かつての俺自身も含めてな。


それくらい、不幸の中にいると自分の力だけでその影響を跳ね除けることは難しい。だったら不幸な人間に、


『他人を巻き込むな!』


と言い聞かせるよりは幸せになってもらった方がたぶん早い。


フィクションの<ボスキャラ>とかは難しくても、性格とか人柄とかが分かってる身近な人間なら、手の打ちようもあると思うし。


そんなわけで、全力でサポートするぞ、ビアンカ。


などと言っても、あまりこっちから余計なお節介をしてもかえって邪魔になるだろうから、基本は見守る方向で。


環境を整えるのも大事だろう。


で、まずは久利生くりうの部屋だな。


「少佐…少佐さえよければ私の家でも……」


とはビアンカが言うものの、


「いや、さすがに女性の家に転がり込むというのもあれだから、私はテントでも貸していただければそこでいいよ」


久利生くりうは遠慮する。


確かに、ビアンカとしても、今のプライベートの姿まで好きな相手に晒すのはちょっと心の準備が必要だろう。例の不定形生物の中の世界でも半ば交際してるような関係だったらしいが、『完全に寝食を共にしてる』ってところまではいってなかったらしいし。


そんなわけで、さすがにテントで暮らしてもらうわけにもいかず、これまでのノウハウもあるしで、ビアンカの家に寄り添う形で久利生くりうの部屋を作ることにした。


しんえいの部屋よりは少しだけ丁寧に時間を掛けて、しかしいずれちゃんとした<家>を作る可能性もあるということで、仮設のそれを、夜までにエレクシアとイレーネに作ってもらったのだった。


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