翔編 命の循環

俺は本当にどうしようもないくらいに凡庸な人間だ。


身体能力も精々平均程度で、知能も知識もAI頼み。一人でこの惑星ほしに不時着していたら三日と生きていられてなかっただろう。


実際、エレクシアがいなかったらじんと出逢った時に死んでたしな。


今から思うと、それはそれで『アリ』な最後だったかもしれない。じんに食われて、この惑星ほしの命の循環に組み込まれるというのも。


そうだ。命は循環してる。<無駄な命>なんてものはない。楼羅ろうらだってこうして微生物の糧になって土に還り、循環していくんだ。


それでいいんだと自分に言い聞かせる。


もちろん、感情の面からしたらただの詭弁でしかないことも事実。俺はそれで割り切れても、割り切れない者だっているだろう。そういう人間に対して、


『割り切れ!』


と押し付けるつもりはない。悲しかったら悲しめばいいと思ってる。


それに、悲しむ時にはしっかりと悲しんで、泣けるなら思いっきり泣いた方が実は精神衛生上は好ましいってのも、分かってるそうだ。


だからメイトギアは、人間が泣いている時には、


「泣かないで」


とは言わないんだと。むしろ、


「思い切り泣いてください。その間の所用は自分が受け持ちます」


みたいな言い方をするらしいな。


普通は。


普段は冷淡で辛辣なエレクシアでさえ、家族の墓の前で泣いてる俺に対して馬鹿にするようなことは、基本的に口にしない。そういう部分では彼女もちゃんとロボットなんだ。


『あくまで人間に尽くすのが役目』っていう部分を外してはいない。


冷淡な対応も辛辣な言葉も、前の主人や俺が望んでるからだしな。


そんなエレクシアと一緒に、今日もアリニドラニ村に向かう。


途中に寄ったアリゼドラゼ村については、<ビアンカの家の設計>をベースにした家を中心として十軒の住居用の家が建ち並び、もうすっかり<集落>としての体裁が整っていた。


だから今度はソーラーパネルを設置して、集落内で使うエネルギーについては集落内で賄えるようにしていく。


今はルート上に設置した無線給電器を介して、光莉ひかり号のアミダ・リアクターで発電した電気を供給してるんだが、それだと万が一給電網が途絶えたりした時には一瞬で機能不全に陥るから、そのリスクは回避しておきたいんだ。


以前にも思ったが、アミダ・リアクターが発明されるまでは、大規模発電所から電気を『買う』のが当然とされてたらしいというのは俺には『怖い』とさえ感じられるんだよな。そんなリスクの高いインフラでよく生活できてたなって。


もちろん、今の方がインフラという点じゃ人間社会とは比べ物にならないものの、こういう状況じゃ諦めもつくが、普通に不安なく当たり前の生活を営むとしたら、大規模停電のリスクは不安だろう。実際、大きな自然災害とかの際には、何日も停電したと聞くし。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る