走・凱編 無駄にならずに

新暦〇〇二九年十月三十日。




オオカミ竜オオカミの襲撃はこうして辛うじて凌ぎきることができた。一番勇猛果敢だったせんがそれによって怪我をしたりしたものの、それもやっぱり治療カプセルを使うほどのものでもなかった。むしろ、かいに舐めてもらったりして喜んでる風ですらある。


ちなみにおんはそれこそ無傷だったようだ。せんは若干無茶なところもあるが、おんは戦いの時こそ冷静になるからかもしれない。


また、りんの子の、あんほうろうも、それぞれかすり傷程度で済んだようだな。


犠牲が出なかったことが何よりだよ。


それに先立って、そう達の方も、ドーベルマンDK-aの援護もあって、無事、レオンの群れを退けることができた。


ただ、相手のレオンの群れは、ボスをはじめとした主要な成体の大半が死に、ほぼ壊滅状態だったけどな……


だが、それは必ずしも不幸なだけじゃなかったのかもしれない。このことによって残ったレオン達、成体の雌二人と子供四人はそう達の軍門に下り、新たに仲間に加わることになった。


これによって遺伝子を受け継いだ子供達が生き延びることになり、命を落としたレオン達の犠牲も無駄にならずに済んだようだ。


また、オオカミ竜オオカミの方も、ボスを失ったことによる新しいボスの座を巡る衝突でさらに数頭が命を落とし、群れは小さくなってしまったものの、このことが必要な餌の数を減らす結果をもたらして、辛うじて最低限必要なレベルを確保できることに繋がった。


生きるために戦い、それによって命を落とす者がいても、結果的に種を存続させることになるんだから、自然ってのは実に良くできているな。


無論それは、犠牲を正当化するための詭弁に過ぎないという一面もあるものだ。とは言え、そう達が助かったことも事実ではある。


こうして加わった新たな仲間だったが、成体の雌は二人ともこの時点では高齢だったことに加えてもはや戦いに加わることもできないくらいに弱っていて、まるで子供達が新たなボスに認められて迎え入れられたことを見届けて安心したかのよう立て続けに亡くなった。


遺体は二人ともビアンカが収容し、新たに作られた畑の近くに埋めて土に返すことにした。普通ならそのまま仲間に食べられてしまうこともあるが、さすがに忍びなかったんだろう。


人間である俺の下で育ったそうかいは、ビアンカが連れて行くのを黙って見送ってくれた。すでにビアンカがすぐそばに来ても怖がることもなかった。


この時、そうかいの群れに加わった子供達は、三人が雌で、一人が雄の赤ん坊だった。


雌は、将来、そうかいのパートナーとなるか、もしくはとうひょうえんくんこんのうちの誰かのパートナーになるのかもしれない。


三人の雌は、それぞれ、おうきんすうと名付けた。たぶん、年齢は七歳から八歳くらいだろう。だから外見上は十歳から十二歳くらいに見える。


雄の赤ん坊は、りょうりょうについてはおんが気に入ったのか抱っこして離さず、止まりかけていた母乳もまたすぐに出始めたようだった。


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