走・凱編 良かったな

新暦〇〇三〇年六月十八日。




レオンやオオカミ竜オオカミの襲撃があった時、残りのレオンの群れは、そうのところからりんのところへと向かう途中にビアンカに蹴散らされた方は結果として犠牲は少なく済み、一方、最初にかいを負傷させたことでほんをブチ切れさせた方はこの時点では様子を窺っていて出遅れ、やはり犠牲は少なく済んだようだ。


自分の仲間を守るためならいくらでも冷酷な対応ができるそうと戦ったレオンの群れのダメージが一番大きかったと言えるかもしれないな。単純な犠牲の数であればオオカミ竜オオカミが最も大きかったが。


いずれにせよ、総じて肉食動物の数が減ったことで辛うじてバランスが取れるようになったのは事実ではある。


新しく作った<畑>により餌が増えたのが、繁殖期とも重なって影響したのか、草食動物らにベビーラッシュが起こっていたのも幸運だったんだろう。


もちろん、それはつまり、草食動物達がレオンやオオカミ竜オオカミに襲われるということでもあり、改めて残酷な光景が繰り広げられることになったわけだが、これ自体が<日常>だからな。むしろそう達に犠牲が出なかったことがおかしいんだ。


だから、糧となってくれた命達に感謝し、俺は今日も家族を見守る。


警備を始めてから一年を迎える前にビアンカは野営を終了し、しかし今しばらく経過を見守るためにコーネリアス号で暮らすことにした。当面の監視はドーベルマンDK-aとドローンに任せて大丈夫という判断だ。実際、疫病で数を減らしたインパラ竜インパラにもベビーラッシュが起こり、個体数が上昇傾向にある。完全に以前の状態まで戻るまではまだ数年を要するとしても、どうやら峠は越したと見られる。


そんな中、えんけんが巣立っていった。と言うか、縄張りを隣接することになった群れにそれぞれ合流したんだ。しかもえんは、飢餓に加えかい達と戦ったことでダメージを負い弱った群れの、未来のボス候補として。今のボスはすでに全盛期の力は失われていて、近々、ナンバー2の位置にいた雄にボスの座を譲ることになると見做されているものの、そのナンバー2自身が、元々その群れのナンバー2、ナンバー3が今回の飢餓の中で命を落としたことで自動的にその立場になっただけで、正直、力不足器不足は否めない様子の雄だった。


となれば、そう遠くないうちにえんがボスの座に収まることになりそうだ。


なにしろえんは、そもそも普通ならボスになっていても何もおかしくない年齢な上に、かいの慎重さとせんの猛々しさを併せ持った立派な雄に成長していたからな。




なんか、そうかい達の話というよりビアンカが中心になってしまったが、でも、みんな元気だし、まあいいや。


それにビアンカもそう達に『危険な外敵じゃない』と認めてもらえたようでよかった。だから彼女がコーネリアス号の外を散歩してても警戒はされてない。さすがにフィクションのように懐いてくれたりまではしないが、そうかいりんにはちゃんと<仲間>だと思ってもらえているそうだ。


良かったな、ビアンカ。


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