走・凱編 それを是とする感性

ビアンカを一番の脅威と捉えたオオカミ竜オオカミは、まず彼女を倒そうとしたんだろう。一度に襲い掛かって喰らい付こうとするものの、それをかいりんが阻む。


と同時に、かいりんの死角から襲い掛かろうとするオオカミ竜オオカミを、ビアンカと試作機が迎撃する。見事な連携だった。だからビアンカの表情にも焦りがない。軍人らしく、淡々と、ただ淡々とオオカミ竜オオカミを倒していく。


そういう意味でも、オオカミ竜オオカミの側が<飽和攻撃>を行うには数が少なすぎた。


一頭、また一頭とオオカミ竜オオカミが討ち倒されていく。


それでもなお諦めずに戦おうとする。彼らも生きるために。


俺には何十分もかかったように見えた戦いだが、実際には、ビアンカが現れてからはほんの五分弱でしかなかった。


そうだな。戦いというのはえてしてそういうものだろう。


決まる時には案外、呆気ないものだ。


オオカミ竜オオカミのボスはビアンカを相手に立派に戦ったと思う。彼女の振るうナイフを見事に躱し、何度も挑みかかった。しかし最後は、ドライツェンシリーズの試作機の放ったスタン弾を目に受けて、


「ギャウッッ!」


と悲鳴を上げたところにりんに飛び掛られ、首筋に喰らい付かれ、頚椎を噛み砕かれ、絶命した。


そしてボスがやられると、残ったオオカミ竜オオカミ達の気迫が一気に萎むのが分かった。動きが悪くなり、攻撃に鋭さがなくなり、一頭、また一頭とその場から逃げ出すものが出始める。


それが五頭ほどになると、そこが限界だったんだろう。まだ二十頭弱が残っていたはずだが、一斉に逃げ出した。恐怖が気迫を上回ってしまったんだろうな。


「ぐああっ!」


せんが咆哮を上げながら、逃げるオオカミ竜オオカミを追うとするが、


「があっ!!」


かいが声を上げてそれを制する。


『追うな!!』


と言ったようだ。


実際、ボスを失い統率を欠いたオオカミ竜オオカミは、レオンにとってはそれほど脅威でもない。しかも次のボスが決まるまでは、オオカミ竜オオカミの群れの中での衝突が起こり、戦うどころじゃないだろう。


かいもそれを承知しているんだと思う。


実に頼もしいボスだ。


それに、かいにとってもりんにとっても自分の群れを守れればそれでいいだけで、別にオオカミ竜オオカミを殲滅する必要もない。


逃がしたオオカミ竜オオカミがまたいつか襲ってくるとしても、その時はその時だ。それも野生の姿なんだと思う。


「……」


戦いが終わった安堵感の中、オオカミ竜オオカミが去った闇をビアンカが黙って見詰めていたのを、ドーベルマンDK-aのカメラが捉えていた。


どこか悲しそうな表情にも見えたな。


彼女としても、別にオオカミ竜オオカミに恨みがあったわけじゃない。ただ、かい達、りん達を守りたかっただけだ。戦うとなれば容赦はしなくても、それを是とする感性は彼女にはないんだというのがよく分かる姿だったと思う。


ただただ守れたことに安心しているだけなんだろうな。


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