走・凱編 謎は謎のままで

あと、その後のリヴィアターネには、真偽不明の噂がいくつも流れてて、なんでも、


『調査のために大量に投入されたメイトギアやレイバーギアが<社会>を形成してる』


とか、


『実はメルシュ博士は今も生きていて、リヴィアターネに<帝国>を築いている』


とか、


『リヴィアターネの風土病に感染しない人間が生き残ってて、人間社会の再建を目指してる』


とか、いろいろ言われてはいる。


ただし、どれも裏付けは取れていない、本当に空想じみた単なる噂話でしかないそうだが。


ウイルスへの対抗策が見付からないうちは完全に封鎖しておく以外なく、その辺りの噂話を確認するための調査すらする意味がないので、地球にある総合政府は何もしないんだと。


下手に調査に行けるなんてことになったら、それこそメルシュ博士のように興味本位で強引なことをする人間が出てきてしまう可能性が高い。


だから、メルシュ博士が連れて行ったメイトギアが送ってくる情報でウイルスの研究を行うだけだ。


総合政府に対する批判も多いが、俺も集団を治める立場になったことで、総合政府の判断もある程度は『だよな~』と思ってしまう面はある。その辺りの厄介事に無闇に首を突っ込みたがる一部の声ばかり大きい人間の好奇心に応えて全体を危険に曝すことはできないんだよな。


ましてやそれで既に犠牲者が出てるとなればなおさらだし、そもそもパンデミック発生からもう九十年ほどになるのに多くの研究者が躍起になってもそのウイルスに対する有効な対抗策すら見付からないということは、封鎖を続けるしかないってことだろう?


陰謀論好きな人間とかもあれこれ言ってるらしいが、いや、<第二の地球>とまでもてはやされた、テラフォーミングがまったく必要なかった超特級の惑星だよ? 利用できるものなら政府としても利用したいだろうさ。それができないってんだから相応の理由があると考えるのが普通だと俺は思うんだ。


ましてや、メイトギア達が送ってくる情報についてはオープンにして研究者達がいつでもアクセスできるようにしてるとも言うし。


でもなあ、それでも、


『その情報はトリミングされてて、すべてオープンにされてるわけじゃない!』


みたいなことを言うのもいるとか。


いやいや、正体不明の難病で家族を失った身にしてみりゃ、そんな子供じみた当て推量で危険に曝されたんじゃたまったもんじゃないってのが正直なところだぞ?


そんなわけで、ここでも、例の不定形生物については、『触らぬ神に祟りなし』であるのなら、『厄介ではあるものの向こうから関わってこない』のであれば、こっちの方から手出しするつもりはないよ。


謎は謎のままでそっとしておくのも一つの手だ。


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