走・凱編 規格外の<天才>
『人間の探究心はすごいですね』
確かに。二十世紀前後の地球の熱気や熱意に比べれば随分と穏やかになってしまったのだとしても、それでも強い探究心を抱いた人間がまったくいなくなったわけじゃない。
時には<天才>と呼ばれるタイプの人間だって現れる。
中でも、<アリスマリア・H・メルシュ>だったかな? そういう名前の科学者がいたんだが、これがまた突拍子もないタイプの<天才>で、何度も逮捕されながらも自身の探究心には正直に動いていたそうだ。
もっとも、それが行き過ぎて、<リヴィアターネ>という惑星で起こった災害を自分の目で確かめたいと、厳重に封鎖されていたのを強引に突破して降下して行方不明になったとも。
なんでも、
『人間の脳を食ってしまう、感染率ほぼ百パーセント、致死率ほぼ百パーセントの殺人ウイルス』
ってのがその惑星にはいて、人間が立ち入ると例外なく死ぬそうだ。それが博士にとってはとてつもなく興味深かったらしい。
だから
と言うか、法律上はすでに死んだことになっているそうだ。
博士はその天才的な発想で数々の発明や特許を持ちとんでもない財を成して、おかげでスポンサーやパトロンがなくても潤沢な研究資金が捻出できて、本当に好き勝手に研究してたと言う。アミダ・リアクターの小型化に成功したのも博士だと聞いた覚えがある。
しかしその一方、博士には身寄りも家族もおらず、その天文学的な資産はすべて彼女が籍を置いていた惑星の行政府に帰属したとかで、その点でも大変な騒ぎになっていたのをなんとなく覚えてるな。
ただ、博士はリヴィアターネに向かう前に、保有資産のほぼすべてを売却したり譲渡したり寄付したらしくて、その点からももう生きて帰ることはないと覚悟の上で赴いたとも推測されている。にも拘らず、博士が資産の処分をしてから法律上の死亡認定がされるまでの間に本人名義の口座などに入金された分だけでもとんでもない額で、それに加えて特許とかだけでも途方もない価値だったらしい。
だから、博士が行方不明になったとニュースに出た時も大騒ぎだった。それによって人類の科学技術の進歩が千年は遅れることになるとも。
それが本当かどうかは俺には分からないものの、とにかく今でもそういう規格外の<天才>と称される人間は生まれることがあるということか。
だが、法律上は死亡が確定していると言っても、彼女がリヴィアターネに持っていったメイトギア達がその後もリヴィアターネ上で活動を続けてて、それによって得られた情報が、リヴィアターネに蔓延しているという恐ろしいウイルスだかなんだかの研究に役立てられてるようだ。
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