走・凱編 会話

新暦〇〇二九年七月一日。




ビアンカに自分達が摘んだ花をプレゼントしてそれを笑顔で受け取ってもらえたことで、まどかひなたも、彼女のことを仲間だと認めてくれたらしい。


ああ、よかった……


そんなわけで俺の方も、いずれ必要になる可能性の高い<集落>の開拓を再開できた。しかも、ビアンカに同行してもらって。


彼女の意見ももらいつつ、集落作りをしようと思ってな。


俺とエレクシア。そしてビアンカ。それぞれローバーに乗り込んで、開拓途中だった集落候補地へと向かう。


「ここに、新しい集落を…?」


ビアンカの問い掛けに、俺は、


「ああ。人間が増えてくると、どうしても合う合わないが出てくるからな。そういう時、無理に一緒にいるよりは分かれて暮らした方がお互いのためということもあるだろ?」


と応える。するとビアンカも、


「分かります、それ。家族でもそうですよね。家族なのに合わなくて、顔を合わせるとついお互いイライラしてしまって。私の兄と父がそうでした。だから兄は早々に家を出て行った。


私の実家はイオにあったんですが、兄は火星に移住して、それで家庭も築いて、まあまあ上手くやってたそうです」


だって。だから俺も、


「あるある」


なんて苦笑いに。


「俺の昔の同僚にもいたよ。そういうの。家出同然で飛び出して、一人で他所の惑星に移住して、それでまあ、自分で家庭を持ってみてなんとなく親の気持ちが分かったみたいなことを言ってたのが」


「あはは♡」


「それでな、そいつの息子も同じように反発して、『こんな家、出てってやる!』とか言われてたそうだ。


で、自分がつい反発してた父親と同じことしてたってのに気付いて、それで自分の態度を客観的に見るようにして改めるようにしていったんだと。


自分が父親に反発して家を飛び出して、それでずっとわだかまりを引きずったまま何十年も連絡さえ取らなかったことを後悔しててな。息子には同じ後悔をしてほしくなかったから、自分が変わることにしたって言ってたよ。


さすがにそんな簡単にはいかなくて俺が会社を辞めた頃にはまだ上手くいったのかどうか分からなかったが、自分の方が変わろうと決意するくらいだったんだから、上手くいったんじゃないかな」


「そうですね……」


コンソールにセットしたタブレットを通じてとはいえそんな話ができるまでになったことを、俺は噛み締めてた。


でも、話が途切れたところで、ビアンカが、


連是れんぜさんのローバーはまったく車体が揺れませんね。さすがブランゲッタ装備型ということですか」


後ろから見てて印象的だったらしく、そう訊いてきた。


「ああ。ブランゲッタの小型化に成功したことで、ローバーにも搭載できるようになったそうだ」


「さすがに二千年の技術差を感じますね。しかも、<アミダ・リアクター>でしたっけ? そんなものまで開発されるとか……


人間の探究心はすごいですね」


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