走・凱編 ファンデーション
とは言え、今のビアンカにも人間としてのメンタリティがある以上、
『これで万事解決!』
なんて考えて油断するとダメだと思う。人間はそんな簡単じゃない。これからも精神的な波はあって当然だし、
『<コーネリアス号乗員、ビアンカ・ラッセ>としての記憶を持ちながら、同時に別人でもある』
という事実が実感としてのしかかってくるのはむしろこれからだ。だから俺は油断しない。
それでも、コーネリアス号から帰る時、<ビアンカ専用ローバー>のキャノピーを開けてわざと自分の姿を曝したままゆっくりとカーゴスペースから出てきて、
もっとも、ビアンカがすぐ目の前に立ったりすればその巨体に警戒せずにはいられないだろうが。
人間が移住可能な惑星を探索することが目的で集められたスタッフだけあって、ビアンカもその辺りはわきまえている。異生物との接触は慎重にしなければいけないということは。まあこの場合、彼女の方が
だからこそ、段階を踏んで自分に慣れてもらおうとしてるということだ。
で、ローバー二台に分乗して、シモーヌ達は俺達の家に帰ってきた。
「おかえり~」
「おかえりなさい」
「おかえりなさいませ」
「おかえりなさいませ」
既にビアンカの記憶が戻っていることはタブレットを通じて本人と話をして承知してて、しかもキリッとした感じになったことも分かってて、
もうすっかり夜なので
一方、
「ただいま…」
出発した時のどこかおどおどした様子とは打って変わって軍人らしい凛々しさもありながら、それでもどこか照れくさいような感じで応えつつ、ビアンカはローバーから降りてきた。ここは俺達の<家>なので、軍隊式の挨拶は敢えてしないようにお願いしてある。もう<お客様>じゃないしな。
「それじゃ、今日のところは疲れただろうから、もう休んでくれたらいいよ」
俺の言葉に、
「はい、ありがとうございます」
と応えてくれた。
で、この日を境に、ビアンカも、肌が見える部分についてはシモーヌと同じようにファンデーションを塗るようになった。蜘蛛に似た<本体>の方についてはさすがにいちいち塗ってると大変なので今はまだそのままだが、これで表情も一層分かりやすくなったな。
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