走・凱編 ただいま
「いろいろとご迷惑をおかけしてしまいましたこと、深くお詫び申しあげます!」
コーネリアス号に帰ってきたビアンカは、それまでがまるで嘘だったかのように凛々しい態度で、シモーヌとシモーヌが手にしてるタブレットに映し出された俺にピシッと敬礼してみせた。
ただ、そんな彼女にシモーヌがクスクスと
「ビアンカ。いまさらそんなに改まらなくても、あなたの素はもうバレてるんだから、もっとリラックスしていいんだよ」
「は…はい! 恐縮です…!」
<コーネリアス号乗員、ビアンカ・ラッセ>としての記憶が戻ったといっても今の彼女としての記憶も丸ごと残っているので、自分がどれだけおどおどしていたか彼女は覚えている。加えて、民間に出向中といっても現役軍人でもあることで少なからず凄みも見せておきたいビアンカにしてみれば照れくさいことこの上ないだろう。
だから照れ隠しもあって、余計に堅苦しい態度になってしまったようだ。
「申し訳ありません……軟弱な性格を直したくて軍に入ったんですが、やっぱり人間の本質というのは変わらないものなんですね」
頭を掻きながらバツが悪そうにビアンカは言った。そんな彼女のことが、俺はむしろ余計に可愛く見えたよ。
「でもまあ、これまでのビアンカのことも俺は好きだよ。悪くないと思う」
そういう俺に続いて、シモーヌが、
「それに、あなたが可愛い物好き猫好きの乙女チックなタイプだってのを知らない乗員はいなかったんだから、今さらだよ」
と付け加える。
「……っ!」
すると途端にビアンカの表情が崩れる。透明だから分かりにくいが、きっと真っ赤になってるところだろう。
そんな彼女に、メイフェアが、
「おかえりなさい、ビアンカ」
微笑みかける。
「うん。ただいま……」
どういう表情をしていいのか戸惑いながらも、ビアンカはメイフェアにも笑顔を向けた。
それまでは迂闊に<コーネリアス号乗員、ビアンカ・ラッセ>として接しない方がいいかと考えてメイフェアには一歩引いた状態を保ってもらってたが、これからは非番の時の彼女に接するそれを基準にして応対してもらえればいいかな。
そうだ。俺達のしてることは別に<任務>じゃない。肩肘張って生真面目になる必要もない。ただ幸せに生きられればそれでいいんだ。
「でもまあ、改めてよろしく、ビアンカ」
「は…はい! よろしくお願いします!」
と、いろいろ紆余曲折もありつつ、ビアンカのことも一応の節目を迎えたなって実感がある。
こうしてビアンカは、積極的にあれこれ手伝うようになってくれたのだった。
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