走・凱編 記憶
「取り敢えず試乗してみるか? 今の体での感覚も掴まないといけないと思うし」
「あ、はい。そうですね」
俺の提案にビアンカは素直に頷いてくれて、キャノピーを閉じた。ちなみにキャノピーは、真ん中でやや羽を広げるように折れ曲がりつつ、カーゴスペースの上へとスライドする形になっている。しかも電動だ。もちろん、急ぐ時には手動で開け閉めもできる。
この方式にしたことでルーフキャリアは付けられなくなったが、必要とあればトレーラーを繋げばいいだろう。トレーラーを繋ぐと今度は小回りが利かなくなるものの、その辺りは仕方ない。
まずはカーゴルーム内で、前進、後退、切り替えしを行い、感覚を掴む。
右ハンドルだったものが真ん中になったからな。
とは言え、その辺は元々、惑星探索の仕事をしてただけあって、乗り物の扱いは手馴れたものだ。記憶はなくても感覚が残ってるんだろう。操作方法も教わらなくても体が勝手に動くようだ。
問題ないようなので、今度は外を走ってもらう。ここまでのテスト走行で安全なルートをコーネリアス号のAIが選定してるので、その指示に従ってゆっくりと走る。
それを待ってる間、
「いいのができてよかったです」
プラントで野菜を収穫しながらシモーヌが言った。ホッとしてるのが分かる。
「まあな。ビアンカももう俺達の仲間だし、自分の意思で自由に動けるようになって欲しいからな。まあ、家の周りをうろつくぐらいなら、今の彼女だと自分の体で動いた方が早いと思うけどな」
「確かに」
笑顔のシモーヌを見ながら、俺もホッとした。
一方、ビアンカの方も快調のようだ。十分も走るとすっかり勘を取り戻したらしく、速度も六十キロほど出して走ってる。
そして走りながら、自分の眼前に広がる世界を堪能してるのが分かる。
その彼女の口から、
「ここに、私達は辿り着いたんですね……!」
と、しみじみとした感嘆が。
「ああ…思い出しました。私達はこれを見付けるために探索を続けてたんです。不幸にして危険な生物に遭遇してしまったけど、それも初めから想定されてたリスクでした。私達はそういうのも覚悟の上でコーネリアス号に乗り込んだんです。
そして、この素晴らしい惑星に辿り着いた……
私、今、ここにいるんですね……」
その言葉に、俺も、
「ビアンカ…記憶が……?」
思わず問い掛ける。
「はい…! 私は、第三百十八惑星探索チーム<コーネリアス>所属、ビアンカ・ラッセ。イオ方面軍第六十六空間騎兵隊から出向してきました!」
それは、<コーネリアス号乗員、ビアンカ・ラッセ>としての記憶。
俺達の<お客さん>じゃなく、自分の任務を遂行している実感を改めて得たことで、記憶が呼び起こされたんだな。
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