走・凱編 俺にとっては苦にならない
俺とビアンカのやり取りは、他人からすれば本当にじれったくて、ウザいだけだろう。何度も何度も同じやり取りをして、『それはもう前にやっただろ!?』と思われて当然のものだろう。
だが、しつこいくらい何度も言うが、人間ってのはそんな単純な生き物じゃないんだ。いや、人間にかぎったことじゃないかもしれない。何か一つのきっかけがあっただけでコロッとすべて変わってしまうなんてのは、むしろ例外的なものだと思う。
物語なら、そうやって一度のきっかけで変わってしまうのが好まれるだろうなと俺も思う。何度も何度も同じようなやり取りが続くのは嫌われるだろう。敬遠されるだろう。『面白くない』と思われるだろう。
でも、自分自身の経験で思い当たることはないか? 一度注意されても何度も同じことを繰り返す奴はいないか? もしくは、自分自身に思い当たる点はないか? 何度指摘されてもやめられないというものはないか?
俺にはあるよ。『話がすぐに脱線する』というのも俺の悪い癖だ。改めた方がいいんだろうなと思いつつ改まらない。
自分がそうだから、他人に対してもすぐに変わってくれることを望まない。むしろあっさり変わられたら勘繰ってしまうだろう。
『何か裏があるんじゃないか?』
とな。
実際、外面だけ取り繕うような人間も多いしな。
その点、ビアンカが簡単に気持ちを切り替えられないのは、むしろ俺にとってはありがたい。彼女の本心がそこにあるというのを実感できるから。俺達のことを信じたい、甘えたい、頼りにしたいと思いつつそうできない彼女の葛藤が見えるからこそ、努力を続けられる。
ここで上辺だけ合わしてこられたら油断してしまうのが自分でも分かるんだ。そして彼女に精神的な負担を強いてしまう。彼女に我慢を強いてしまう。
俺はそれを望んでない。
今回のことでも、彼女が完全に打ち解けるわけじゃないと俺は思ってる。
けど、それでいいんだ。そのおかげで、彼女を理解するための努力をこれからも続けられるんだし。
そしてそれは、俺にとっては苦にならない。そういうのが苦手な人間もいると思うが、俺はそうじゃない。
これが俺の長所であり、同時に短所でもあるとは思う。やたら時間のかかる問題を、さっさと切り捨てることなく抱え込むっていう意味ではな。
でもなあ、それが<俺>という人間なんだよ。だからこそ、こんな俺とは合わない人間も出てくるだろうから、別の<集落>を作ろうともしてるんだし。
ビアンカの件で中断していたそれも、ぼちぼち再開しないといけないな。
なんとか泣き止んで、用意したローバーに乗り込んで具合を確かめてくれてるビアンカの姿を見ながら、俺は思ったのだった。
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