走・凱編 人間を家畜のように

Aiによる制御は、人間を家畜のように管理するためのものじゃない。ルールを無視し他人を危険に曝す輩に勝手なことをさせないのが目的なんだって、自分が全体を見渡さなきゃいけない立場になったことでよく分かったよ。


なにしろ、実際に、『他の人間社会の<法の支配>が及ばないここで、他人に危険が及ばないように気を付けながらローバーとアリスシリーズの試験機のテストを行っている分には別にAIから警告を受けたりしない』んだから。


だが、人間社会で、自分の都合ばかり優先してルールを無視するような輩に好き勝手させてると、


『なんであいつばっかり好き勝手するのが許されるんだ? 自分も同じように許されるべきだろ』


と考えてしまいがちなのも人間というものだろうな。


で、制限速度を超えて走ることさえ『当たり前』になってしまう。


現に、AIによる制御を廃したところではそういうことが起こってるらしい。


そこに住む人間全員が理性的でAIに制御されなくてもきちんとルールを守れるならAIによる制御は必要ないのかもしれないにしても、事実、そんな品行方正な真面目人間だけの地域なんて存在しないよな。


元より、AIに干渉されるのが嫌だからAiを拒絶するって考えるわけで、そういう人間の中には当然のように『自分勝手に振る舞いたい』って考える人間も含まれてしまうわけだ。


そうなると、『ルールを無視してでも、他人を危険に曝してでも、急いでる人間を優先すべき』なんて発想も生まれてくる。


AIは、身勝手なことをしようとして他人に不利益を与えようとする人間に干渉してくるだけだ。そうじゃなければ滅多やたらと口出しはしてこない。


ある意味では、警察などの治安機構だけでは対処しきれない日常の中の些細な不法行為を抑制するために存在するとも言えるだろうな。


『寝坊して遅刻しそうだから制限速度以上で走らせろ!』


とか考える人間に対して、


『寝坊したのはあなたの落ち度です。それを理由に他人を危険に曝すことは許されません』


と言ってくれるのが今のAIなんだよ。


しかも、メイトギアとかが家にいればそれこそ寝坊しないようにちゃんと起こそうともしてくれるし、そもそも前日に早く寝るように促してもくれるし、寝られるように雑事を引き受けてもくれる。そこまでしてもらってその上で、


『深夜番組をリアルタイムで見たいから夜更かししてそれで寝坊した』


なんて理由で寝坊した人間を優先しなきゃいけない理由があるか?って話だよな。


『まずは遅刻しないように時間に余裕をもたせる行動をする』


のが先じゃないのか?


それができないのなら、


『遅刻して自分の評価を下げる。自分自身に不利益が返ってくる』


のは、むしろ自然な成り行きなんだろうな。


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