走・凱編 他人の存在もルールも無視して

そうけいかいは、基本的に常に子供達に意識を向けている。三人がそれぞれ意識を向けているから、子供達が危ないことをしようとしても誰かが気付く。


俺も子育てしてみて実感したが、子供っていうのは目先のことに集中すると本当に周囲が見えなくなる。これはもう『そういうもの』なので、<不注意>とかじゃないんだ。脳自体が成長途中なのに加えて経験が未熟ゆえの元々の<習性>なんだよ。それが成長と共にコントロールできるようになっていくだけだ。


わざと注意を聞かなかったりってわけじゃないんだな。なかにはわざと無視してるのもいるかもしれないが、全部じゃない。本人がたとえ注意してるつもりであっても、すごく気を引かれる何かがあると、それ以外のことが頭からスポーンと消えうせてしまうというのが子供だ。それを分かってないと事故になる。


自動車を運転してても、『子供の姿が見えたらまず徐行』と言われるのは、そういうことだ。自動車を制御してるAIも警告してくるしそれでもドライバーが警告を無視するようであれば自動で速度を下げてくる。


それはコーネリアス号のAIも同じだ。子供達がハッチの近くにいるとハッチを開けることさえしない。


AIは人間のように、


『飛び出してくる子供が悪い』


『子供をちゃんと見ておかなかった親が悪い』


というような感じで他人の所為にしない。


危険回避のために必要なことであれば、淡々と行う。


それだけだ。




これまでにも何度か触れたが、今は、それなりの機能を持つ機械にはAIが搭載されている。当然、自動車なんかは、メイトギアほど高度なものではないし会話などは基本的にできないものの、必要とあればある程度の自律行動もできるロボットなんだ。


だから、マニュアル操作にしていても制限速度を超えての運転はできない。アクセルを踏み込んでも制限速度に達するとそれ以上は加速しない。


しかし同時に、セミマニュアルに設定するとAIが信号が変わるタイミングなどを計りながら速度を調整してくれるので、あまり信号に引っかからないように走行できて結果としてスムーズに走ることもできるんだ。しかも信号もAIで制御されているため、自動車のAIと連携して交通量の多い方の信号を優先したりして渋滞が起こりにくくもしてくれる。


都市そのものを一個の生物と見做して、循環が滞らないようにしてるとも言えるか。


ただ、AI排斥主義者、ロボット排斥主義者達が集まってできた<コミュニティ>などでは、小さなものであればそれほど問題はなくても、同じ考えの人間があらゆるところから集まって<街>と言えるほどの規模になってくると『個々人の判断に任されている』影響が大きくなり、どうしてもスムーズにいかないことも多いという。次の信号に間に合うはずもないのに必要以上に加速してやはり信号に引っかかり、減速。その後ろを同じように走ってきた自動車も当然減速。それが連鎖して後ろの方では走っている時間が先頭に比べると大きく減ってしまうということが起こるそうだ。


そうして渋滞が発生する。


しかもその渋滞にイライラして流れ始めると制限速度を超えて走ったりもするという。


AI排斥主義者、ロボット排斥主義者達が作った街なので、無論、街そのものがAIによって有機的に制御されていない。加えて、使われている自動車も、AIによる制御は人間の操作に干渉できないように制限されてるそうだ。それどころか、地域によっては一切の電子制御を廃した、まさに<先祖返り>とも言うべき自動車も独自に作られているらしい。


他の地域では公道を走ることができないそれでも、自治権を獲得したところでは、まあ、自分達のコミュニティ内を走ってる分には勝手にすればいいだろう。


とは言え、他人の存在もルールも無視して自分のやりたいように好き勝手に運転するような人間にまでそういう自動車を使わせるから、危険な運転をする者が出てきてしまう。他人の運転の仕方が気に入らないと自分が誰よりも前に出たいからと<煽り運転>と呼ばれる危険行為をするような者にまで、自動車を自由に運転する権利を与えてしまうことになるんだよな。


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