走・凱編 練習

問題があったことは残念だが問題点を炙り出すためのテストなのだからそれが見付かるのはむしろ好ましいこのはずだ。


それを基にセッティングを出し、バランスが取れるようにする。


「機体側の処理速度を上げると何とかなるのか?」


ロボットについては基本的に素人の俺はそう思ったりするんだが、それに対してエレクシアは、


「いえ、処理速度そのものは問題ないと思われます。タスクの優先順位に齟齬が出ていることで余計な処理を行っており、それがラグを発生させているのでしょう。そちらは学習による効率化で対処するべきと考えます」


「なるほど。人間が反復して練習することで考えなくても勝手に体が動くようにするのと同じってことか?」


「そうですね。そのように考えていただいていいと思います」


今のAIはものすごく複雑だからな。


本体側にはAIを搭載していないと言ったってそれはあくまで全体を一括で制御するための頭脳としては搭載していないというだけで、実際に各部を制御するのは部品単位のAIだ。それらが連携することでロボットは生物のような有機的な動きが可能になるそうだ。


そして、アリスシリーズの試験機は、緻密で繊細なそれを実現するために、ドーベルマンDK-aに比べても数倍という数の部品が使われてる。それらの連携が上手く取れていないことであんな酔っ払い運転みたいな感じになっているのか。


頭脳であるコーネリアス号のAIはもちろんちゃんと試験機のボディを動かそうとしてるんだが、そもそもボディの方がちぐはぐな動きをしてるのでどうしようもない状態なんだな。


つまり人間と同じように自動車の運転の練習をさせないといけないわけだ。


二十キロくらいまではまあ何とかなってたのが、速度が上がることでデータの処理も膨大になると同時に部品ごとの連携も忙しくなると。


人間が端末を使ってデータをつき合わせてセッティングを出すという方法もあるっちゃあるそうなんだが、システムエンジニアが何人もかかりきりで何日も何十日もっていうのは、さすがに現実的じゃない。そもそもそういう手間を省くためのAIだしな。


そんなこんなで、ローバーと試験機のテストと言うか<練習>を続ける。


なんか、子供に自転車に乗る練習でもさせてるような気分だ。


その一方で、毎日ローバーが出入りすることでそうも慣れてしまったらしい。一応、意識は向けるものの強く警戒はしない。ただ、子供達がハッチに近付こうとすると、


「ぐあっ!」


と声を掛けて呼び戻す。これも、親が子供に、


「危ないから近付いちゃダメだぞ!」


って言ってる感じだな。


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