走・凱編 検証

『せっかく作ったのにもったいない』


と考える向きもあるだろうが、まああれはあれで使い道はあるかも知れないし、必要なければ外せるようにも作ってある。それに、こういうのはとにかく試してみることで改善点を見出していくものだろう。それが見つかった以上は次に移るべきだと思う。資材が不足してるならともかく、あるんだからケチケチしない。


そういうわけで<ビアンカ専用ローバー>の製作に入ることにする。


ビアンカに告げると遠慮するかもしれないので、取り敢えず勝手に作ろう。で、万が一上手くいかなかったらそのまま黙ってよう。俺が勝手にやったことだ。彼女に負い目を感じさせたくない。


設計そのものは、エレクシアにかかれば数時間でできてしまった。それをセシリアを通じてコーネリアス号に送信。コーネリアス号のAIがさっそく製作にかかる。


ローバーにもAIは搭載されていてある程度の自律走行はできるので、起動させてカーゴスペース内の工作スペースに移動させ、まずは内装もシートもすべて取り外し、それから後部座席以降のボディ上部を超振動カッターで切断。切断面を処理して、オープンボディにする。


そうして切り取られて不要になったボディを素材にして、新設計されたボディを作る。ビアンカが乗り込み易いように、ボディ上部を丸ごと跳ね上げ式のキャノピータイプのハッチにするんだ。


そしてシートは、今の<席>のシートが問題なく使えてるそうなので、その設計を流用する。


で、ハンドルとペダルの位置は真ん中に持ってくる。これは元々の設計で必要とあれば右でも左でも真ん中でも使えるようになってるのが役に立つ。まあ、それは俺のローバーも同じで、この種の特殊な目的に使われる車両には珍しくない仕様だそうだ。使用条件に合わせられるように自由度を持たせるために。








新暦〇〇二九年六月十七日。




AIは人間と違ってほとんど無駄な動きもしないし休憩も必要ないことで、一日で基本的な部分は出来上がった。なので次は、アリスシリーズに向けての試験機を使って試験走行させてみる。これは、アリスシリーズの開発に向けての試験も兼ねているんだ。


ドーベルマンDK-aではここまでの汎用性がなかった。しかしアリスシリーズについてはメイトギアに次ぐ汎用性を持たせるのが目標だ。だからローバーの運転もできるようにという狙いもある。


外見はまだドーベルマンDK-aと変わらないが、マニピュレータの自由度や精度を上げ、ローバーの運転も可能にしてあるんだ。


四本足の後ろ二本をシートの縁に引っ掛けて自身を固定。前二本の足でペダルを操作、両手でハンドルを操作、カーゴスペース内をゆっくりと移動。後退、切り返し、前進。


そうやってローバーと試験機を検証する。


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