走・凱編 別の視点

で、今回も無事に帰ってきてくれたんだが、帰ってきてからセシリアが、


「現在の席はビアンカ様には狭いのではないでしょうか?」


と、俺に進言してきた。


「あ、やっぱりそう思うか?」


あの<席>に収まってる彼女を見て俺が正直抱いた印象をセシリアが代弁してくれたな。


最初の仮のものよりは随分とマシになったと言っても、やっぱり彼女にはサイズ的に座ったらほぼ身動きが取れない状態になる。惑星探査のスタッフだから『そういう装備品』と考えたら我慢もできるのかもしれないし実際にビアンカ本人からは不満もなかったし、シモーヌもメイフェアもイレーネも『そういうもの』と思ってたかもしれないが、現実問題としてビアンカは違う。


セシリアは、元々、<惑星探査の専門家>ではない側の視点でスタッフのケアを行うことを目的に配備されていたそうなので、その指摘が出たんだろうな。


ということで、せっかくちゃんとしたのを作ったが、改めて再設計、と言うよりは、予備のローバーをベースにして、彼女用のローバーを作ろうと俺は決心した。


コーネリアス号にはまだローバーが残されてるんだ。現状じゃホントにただの予備だから、メンテナンスはしてあっても事実上放置してある状態だし、それじゃやっぱりもったいないからな。


使えるならどんどん使おう。


と言うわけで、エレクシアに、今のビアンカでも運転できるローバーを設計してもらうことにした。


人間社会だといろいろ法律的に煩い面もあるが、ここじゃそれも関係ない。


「どうだ? 作れそうか?」


エレクシアに尋ねると、


「技術的には難しくありません。元々あの車両は、必要に応じてハンドルとペダルの位置を変更できる仕様になっていますし、車両の機能としてはフレームと一体化したアッセンブリの部分だけで成立する構造になっています。なのでボディの部分は設計上の自由度が高いのです。ビアンカが乗り込み易いようにボディの上部を変更するだけで済むでしょう」


とのことだった。


そこで、一応、<コーネリアス号乗員秋嶋あきしまシモーヌとしての記憶>も持つシモーヌに、備品であるローバーに大幅な改造を加えていいかどうか、取り敢えず窺ってみる。


「…ということなんだが、どうかな?」


「いいですね、それ! コーネリアス号の船外作業機のコクピットはそれこそあの感じだしそれで何時間も作業することはあったのであまり気にしてませんでしたけど、言われてみれば確かに窮屈そうでした!」


だって。うん。やっぱり<別の視点>というのは必要なんだな。


『仕方ない』


『そういうもの』


で思考停止するんじゃなく、日常的に使うものについてはある程度の快適性もあったほうが楽になる。


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