走・凱編 一方的に都合のいい状況

<誰かにとって一方的に都合のいい状況>


そんなものを実現しようとしてきたら、俺達なんてとっくの昔に殺し合いになっていただろう。およそ生態の違う者同士がこうやって共同生活してるんだ。全員、ちょっとずつ何かを我慢したり控えたりして折り合いをつけてきてる。


ビアンカの存在をほとんどの家族が恐れていた時、彼女を排除しようとしていたら……


今の自分を受け入れ難いと感じてる彼女だって、一方的に殺されそうになれば自分の命を守るために生き延びるために抵抗もするだろう。


逆に、ビアンカの存在を概ね受け入れようとしてきてる時に、彼女をいまだに恐れてるじゅんの存在が都合悪いからって排除しようとするのも違うと思う。あいつにとってはビアンカは受け入れ難い存在でも、別にあいつが攻撃をしてくるわけじゃない。


だったら、じゅんがビアンカを怖がっているという事実は事実として折り合いをつける必要があると俺は感じてる。


だからビアンカの方も、無理に自分を受け入れてもらおうとしてじゅんに構うということもしない。お互いに見て見ぬふりをしてスルーするというやり方も必要なんだろうな。


もうこの時点で、


『誰とでも仲良くする』


なんていう考え方は破綻してるだろう。


だが、それでいい。


以前も言ったと思うが、人間には必ず<矛盾>が存在する。いや、多くの生物には基本的に矛盾が存在するんだろう。


『いずれ死ぬために生まれてくる』


という点も含めて。


俺がどれほど理屈をこねくりまわしても解決しない矛盾もあると思う。そもそも俺なんかがすべての矛盾を解決できるなら、とっくの昔に人類が抱える問題のすべてが解決してるだろうしな。


そんなことは最初から期待していない。努力はするものの、そうなるとは思っていないんだ。これも大きな矛盾だよ。


そして、自分が矛盾を抱えているから他人が矛盾していてもそれをことさら責めるつもりもない。


『解消できる矛盾は解消した方がいいんじゃないか?』


とは思うものの、必ずそれができるとは思ってない。


様々な問題は抱えつつも、俺達は、今、幸せだ。


『まったく問題が存在しない』


なんてムシのいい世界は存在しないことを俺は知っている。だからこそ幸せになれるんだ。実現するはずのない<完璧な安寧>を求めないから。


そんなものを求めてたら、それこそが幸せなんて思ってたら、実現しないんだから幸せにもなれないということになる。


だが実際には、大きな不幸の中にあっても<幸せ>というものは見付けられる。得ることができる。それもまた矛盾だな。


矛盾を認めるからこそ得られる幸せだ。


完璧を求めていつまで経っても幸せを得られない生き方をしたいなら好きにしてもらっても構わないが、俺にはそんな生き方はできないな。


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