走・凱編 旋

次は、せんのことに触れようか。


せんは、漫画やアニメで言うところの典型的な<暴力ヒロイン>って感じの雌だった。人間から見ても美形ではあるものの、とにかく乱暴なんだ。しかもかなり理不尽でもある。なので、嫌う奴はとことん嫌うだろう。


しかし、強く、さらに狩りも巧いので群れ中での地位は高い。前のボスのパートナーの中ではたくに次いで若かったが、寵愛を特に受けていた雌の一人でもある。


そんなせんではあるが、今ではかいにメロメロだ。力でもまったく敵わない。機嫌の悪い時は今でも食って掛かったりすることもあるものの、その度に押さえつけられて屈服させられる。


どうやらそれは、かいの強さを再確認するという目的もあるようだ。で、力で屈服させられると発情するらしく、そのままかいを求めたりもする。かいせんのことは好きなので求めに応じるのがいつものパターンだ。


ちなみに、行為は割と頻繁だが、妊娠率は決して高くないようだ。ふくも、俺との間にそうかいしんさいりんをもうけたものの、彼女を抱いた回数からすれば『少ないな』という印象があるのは正直なところである。


ふくの場合は相手が俺だったから余計に妊娠しにくかったのかもしれないものの、他の純粋なレオン同士の番でも、俺とふくの場合に比べて極端に妊娠率が高いわけでもないようだ。


まあ、マンティアンに比べると不利とはいえ、生態系のピラミッドの中では頂点近くに存在する種だから、あまりポンポン生まれてはバランスが崩れるので、そういうものなんだろう。


その一方で、同じように気性の荒い傾向にあるしゃくと違って子育ては割と熱心にやってたようだ。それもあってか、えんけんは立派なレオンとして育った。


そんなせんの活躍もあって、かいの群れは今日もしっかりと獲物を確保していた。おそらく群れでは食べ切れないくらいだ。それで残った分は、また、かいりんの群れとの境界線辺りに放置して、<おすそ分け>することになるんだろうな。


なお、獲物が確保できたことで、かいりんの様子を見に行くことができたようだ。決して偶然ではない。余裕がある時にはそうやってりんの様子を見に行くのもかいの日課だった。


かいのその行動をせんがどう思っているか心配したこともあったが、実際、かいが群れを離れてりんの様子を見に行ってから戻ると、


「がーっ!!」


などと吠えながらせんが襲い掛かったりすることもあるものの、圧倒的な体格差もあり、かいにとってはじゃれつかれた程度でしかないようだ。


しかもせんにとってもかいの強さを実感できることで機嫌を直して、甘えたりもする。


雄の方にかなりの器がないと実に扱いにくい雌なのかもしれないが、かいとの相性はばっちりなようだ。


ちょっと性格に難のある姉さん女房を、上手くコントロールしてるんだよな。


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