明編 シンプルに生きる

新暦〇〇二九年五月三日。




俺達がそんなことをしてる間も、めいかくじょうは、淡々とマンティアンとしての生を全うしていた。


それと比べると人間ってのは本当に面倒な生き物だよな。とにかく考えなきゃいけないことが多い。


『考えすぎるのはよくない』


とはよく言われることだが、俺はその言い方だと言葉が足りないと思う。


『考えるばかりで決断できない行動に移せないのはマズい』


と言ってくれた方が俺にはピンとくるかな。


考えるってのはあくまで、


『適切な対処を導き出してそれを基に行動する』


ためにすることなんだから、考えてるばっかりで決断できない行動に移せないじゃ、まさに本末転倒ってことだと思うんだ。


例えるなら、政治家達は、よりよい社会を目指すために必要な施策を導き出すのを目的に議論してるんであって、議論はあくまでそのための手段であって、議論すること自体が目的になっちゃダメだというのと同じだろう。


とは言え、ついつい考えることに集中してしまうと他が疎かになるのも人間って生き物の特徴かもしれない。


が、自分が人間に生まれついてしまった以上、その事実を嘆いても何かが良くなる訳でもない。自分に与えられたものは受け止めた上でどうするかってのが大事なんだとすごく思う。


めい達はめい達で常に生死の狭間で生きてるんだしな。それを羨ましいとは正直思わない。


『隣の芝生は青い』と羨んでもそれで自分が幸せになる訳じゃない。


しかも、マンティアンとしてのシンプルな生き方を捨てて敢えて俺達の群れに加わったのがえいだからな。あいつにとっては、マンティアンとしての生き方は必ずしも幸せじゃなかったんだろう。


その選択がどういう結果を生むかは、俺には分からない。


ただ、それが結果としてあいつの幸せに繋がることを祈るだけだ。そのために必要な対処は取りつつも。


あいつがもし、マンティアンの本能に基づいて反射的に家族の誰かを傷付けようとしてしまった時には、ちゃんとそれを止めてやらなきゃな。


そのためにもエレクシアやイレーネが常に待機してるというのもある。外敵に対する備えだけじゃなくて、どうしても野生の本能が強く残ってしまってるであろう俺の家族内での突発的なそれに対処するというのも、彼女達の役目だ。


新しく作るロボットには、その辺りに対処できるだけの性能も求められる。エレクシアとイレーネだけじゃ間に合わないことも出てくるだろうからな。


<ドライツェン>は外敵への備えが主目的だから、家族内仲間内でのことについては<アリス>が担うことになるだろう。だからただ単にフレンドリーなだけでいればいいというわけじゃないんだ。


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