明編 環境負荷

新暦〇〇二九年五月六日。




新しい集落に向けた開墾については、エレクシアがいれば特に問題はなかった。


俺が傍にいれば、危険な猛獣が周囲にうようよといるここでは、簡単に<戦闘モード>を開放することができるからだ。


戦闘モードは、いつでもどこでも命令一つで好きに開放できるわけじゃない。それが必要な危険が切迫しているという状況がないと切り替わらないようにはなってる。


が、ここだと常に命の危険に曝されてる状態だからな。それこそいつでもどこでもすぐさま戦闘モードに切り替えることができるから便利だよ。皮肉な話だが。


で、戦闘モードに切り替わったエレクシアは、まさに重機のような働きを見せることができる。


コーネリアス号の工作室で作ってもらった伐採用のチェーンソーで次々と木を切り倒し、その場で建築資材用に枝を落として形を整えて積み上げていく。初期のチェーンソーはエンジンを搭載してすごい音を出しながらだったらしいが、今は電動だから木が削り取られる音が五月蠅いだけだ。


そうして半径三十メートルほどの空間を作ると、今度は残った根を掘り起こし、それもまとめておく。こちらは切り落とした枝とも併せて後程細かく粉砕して様々な物品の原材料にするんだ。


植物が持つ殺菌作用をもたらす成分を抽出して傷薬を作ったり、それ以外にも様々な薬品が作れるし、旨味成分を抽出して調味料を作ったり、油分を集めて固めて固形燃料にしたり。


樹脂はそれこそ食器類などをはじめとした日用雑貨を作る材料になるし、残ったセルロースなどについてはバイオプラスティックの原料になる。


基本的に捨てるところはない。まあ、捨てたとしても自然に還るだけだから、別に問題はないんだろうが。


ちなみに俺達の生活でもゴミは出るものの、それらも全てコーネリアス号に運び込んで再資源化するので、本当にただのゴミとして棄ててしまうものはまずない。


宇宙船やスペースコロニーなど限られた環境下での長期生活のデータもこれまでに蓄積されたことで再資源化技術が発達したからな。


かつての地球では<ゴミ問題>とかいうものが深刻だったそうだが、地球だけで暮らしててそんな風に資源を無駄遣いして、よくそれでやってこれたなと感心さえするよ。


どこかの時点で滅んでいてもおかしくないよな。


ちなみに排泄物についても、タンク内で加熱殺菌水分を飛ばし体積を小さくして肥料化。後は周囲の木の根元にでも撒いておけば肥料になるから問題はない。


環境に対する負荷をコントロールするというのは、今では完全に普通のこととして定着した概念だ。技術を進歩させることで、無理なく、過度に自制しなくても環境への負荷を下げることができるようになったおかげで、人間は永続的に繁栄を続けることができるようになったんだろう。


<必要は発明の母>とは言うが、まさにその通りだったんだろうな。


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