明編 快・不快
新暦〇〇二九年四月三十日。
新しいロボットの開発中にも、集落の候補地の選定と開墾を同時に進める。
ドローンによってある程度の目星をつけてな。
で、今日は、家族のことはシモーヌとセシリアとイレーネに任せ、俺とエレクシアとで候補地を実際に確認に向かうことになった。
そこは、俺達の家がある場所から北に二十キロ離れた、やはり密林の中だった。数ヶ月前に落雷が原因と思われる火災が発生し、半径百メートルほどの範囲が焼けていたんだ。火災発生後にスコールがあったことでその程度で済んだらしい。
もちろんそのままにしておけばいずれ回復し元の状態に戻るんだろうが、今なら環境に与える影響も少なくて済む筈だし、開墾するにはもってこいだと考えたわけだ。
現地に到着すると、そこはドローンであらかじめ見たとおり、黒く煤けた木が残された場所だった。と言っても、ほとんどの木は表面が焦げているだけで決して死んでいる訳じゃない。下草も既に新しいのが生い茂り始めて、命が循環しているのが分かる場所だった。
だが、人間が生きるにはそれなりの開発は必要になる。
「いい感じだな。俺はそう思うんだが、エレクシアはどう思う?」
問い掛ける俺に、彼女は、
「マスターの意見を否定しなければならない理由は見当たりません。現在の私達の生活環境と同等のものを確保するには最適地であると考えます」
と淡々と応えた。
「だよな。完全な不毛の地を開発するなら環境へのダメージも少なく済むかもしれないが、そういう場所をあてがわれた人間の心理も考慮すると、あからさまに差があるというのも問題だろう」
と、俺は判断する。
しかし同時に、こういう密林に囲まれた場所というのは、まあいろいろな虫や獣がその分豊富だというのも事実なので、もしかするとその点から嫌う者もいるかもしれないし、そういう場合に備えて、砂漠地帯にも候補地をとは思ってるけどな。
虫については非常に効果的な<虫除け>があるからまだしも、さすがに獣にはあまり効果がないし。
毒などを持ってる虫や獣はもちろん危険なので要注意だが、いわゆる<不快害虫>ってのを嫌うのも人間というものだろう。
『そんなものに囲まれて暮らすぐらいなら、不毛の荒野の方がマシ』
という人間も出てくるかもしれない。
とかく人間ってのは、適応力が高くどんなところにでも進出していくが、同時に、<快・不快>ってのにとにかくうるさいっていう特徴がある気がする。
ここで生まれることになる人間達もそうなるという可能性がどの程度あるのかは現時点では不明にしても、まあ、十分に想定できる以上は、一応、考慮しておいた方がいいんじゃないかな。
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