明編 理由

新暦〇〇二九年四月十七日。




人間は人間を特別視しすぎてるからおかしなことになるんだろうというのをすごく感じるな。


その点、ここはシンプルだ。


『自分が生きる為に必要な手段は何でもとる』


だけだし。その為なら相手が同族だろうと攻撃するし、その結果として相手が死んでもそれを悔やんだりもしない。


ただし、それは相手も同じ。そうやって自分が殺されることだって当然のこととして有り得る。


元々は単純な話なんだろう。


とは言え、自分が殺されるのは真っ平御免だし、自分の家族や親しい人が殺されるのも真っ平御免だ。となれば、お互いに相手を害さない殺さないという<約定>を交わすしかない。


これが<人間の社会>ということか。


突き詰めればそういうことなんだろうなって俺は感じてる。


危険な猛獣をペットのように飼う、いや、中にはそれこそ<家族>のようにして一緒に暮らしている人間もいる。


まあこれは、今では俺もその一人なんだが、自分がどうやって彼女らと折り合ってきたかを考えると、


『人間を襲わないといけない理由を減らす』


『人間を襲ってはいけない理由を作る』


という形だったのが分かる。


彼女達との場合、順序としては、人間を襲ってはいけない理由を作ってから人間を襲わないといけない理由を減らしたってことになるのか。


まずは、俺が強力な攻撃手段を持っていて下手に危害を加えると逆に自分がやられるという意味で襲ってはいけない相手だと認識させた上で、無理に俺を襲わなくても生きていける状況を作ることで折り合いをつけてきたんだよな。


まあそれだけだと、互いに不干渉を貫く<隣人>として生きていくだけだが、ひそかじんふくようの場合は加えて俺をパートナーとして認めてくれたから、群れとして一緒に生きていくことができたわけだ。


さすがにパートナーとして認めてもらうにはさらに細かい条件が必要になってくるだろうし、そもそも相手の琴線に触れないといけないので常にそれができるわけじゃない。しかも自分にも<好み>というものがあるし。


となれば、やっぱり基本的には<隣人>として関係を築くことになるんだろうな。


下手に手を出すと危険な相手だと認識してもらいつつ、最低限、互いに干渉しなくても問題ない状態を作り出すこと、可能であれば互いに益を与え合って<共生>できる関係になること。


俺の場合だと、『互いに干渉しなくても問題ない』状態なのが、駿しゅん達で、


『互いに益を与え合っている』のが、じゅんえいという感じかな。かつては、ちからはるかもそうだったか。


ちからはるかは、グンタイ竜グンタイの襲撃の際、撃退に協力してくれたし、それ以前からも、きたるひかりが遊んでいるのを見守ってくれたりしてたのが、俺にとっては<益>だったんだ。


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