明編 仰天

パパニアンほどじゃないが、マンティアン同士も多少は<言葉>に近い、やり取りをするための<信号>を持っている。


もっとも、その語彙はさらに少ない上に人間ではほぼ発声不可能なものだけどな。何しろ、声帯の形からして違うから。


しかしそれさえ、メイトギアは再現する。通常は人間と同じ形で発声しているんだが、機種によってはスピーカーも同時に内蔵していて、合成した音声を発することもできるんだ。


そしてイレーネはスピーカーも内蔵している機種だった。


ちなみに、エレクシアとメイフェア、セシリアも内蔵している。


さらに余談だが、同じメイトギアでも、特に安価で機能が限定された機種だと、元々の発声が、人間のそれを再現した形じゃなくて、最初から内蔵スピーカーを使ってるものもある。人間の発声方法を再現するのは結構な高機能が要求されるんだそうだ。


と、これ以上は話が逸れるから、とにかくえいとイレーネだ。


彼女から、


『私達のところにいらっしゃいますか?』


との提案を受けたえいは、短く、


「キ……」


とだけ応えた。


『行く』


ってな。


こうして、メンテナンスから戻ってきメイフェアと交代してイレーネはえいを連れて帰還し、俺が思ってた通り、えいは俺達の<群れ>に加わることになった。


マンティアンを迎える形にはなったものの、それはじんを迎えた時と同じだから、望んで加わるのであれば拒む理由もない。


ほむらさいあらたは、じょうと暮らした経験があるから慣れてるし。


ただ、じゅんだけは違う。何度かじょうと顔を合わせたりしたことはあったものの、当然、彼にとってマンティアンは、ただの恐ろしい<天敵>だ。


「わーっ! うわーっっ!!」


と声を上げて、天敵の襲来を告げ、あかりを引っ張って、自分の<家>に隠れてしまった。ひかりは、パパニアンとしての生態からかそれこそもう臨月を迎えてるので、必要がない限りは外を出歩くこともない。


野生のパパニアンなら完全に姿が見えなくなるまで逃げるところだが、じゅんは、エレクシアがいてイレーネもいるここの方が安全だと知ってるし、その上で家に閉じこもれば安全だと認識してるんだ。


それでも当然、怖いものは怖い。でも、咄嗟にあかりも助けようとしてくれたのは嬉しい。自分一人で逃げてもおかしくないのにな。


一応、じゅんひかりまどかあかりの小集団の中では自分が彼女達を守らなくちゃと思ってくれてるということなんだろうな。


実際の強さはまあさて置くとしても、うん。ありがたいことだよ。


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