明編 連れ去り

新暦〇〇二八年十月六日。




結果としてさくは見殺しにしておいてえいはこうやって守るんだから、それを<エゴ>だと言われるとぐうの音も出ないよ。


だが、さくについては名前まで付けたりもしたものの、これまでだって気付いていながら見殺しにしてきた例はそれこそ数限りなくある。それを考えると、家族でもないのに助けようとしたさくの方が特別扱いとも言えるかな。


この辺りは、どこで区切っても結局は<エゴ>ってことになるだろうから、あまり考えても無駄だろうとは俺も思ってる。


考えることは大事でも、囚われ過ぎないようにしないとな。でないと自己矛盾で精神をやられるだろう。


全ての命を救うことはできない。そして、生きるというのは他の命をいただくことでもある。


それを忘れないように。な。


エゴや矛盾も承知した上で、俺達は生きてるんだ。


なら、俺と直接血のつながってるえいを守りたいという自分の気持ちに嘘を吐く必要もないと思う。


という訳で、えいが俺の<群れ>に新たに加わった。


しかも、それと同時に、しんが狩りに行って帰ってきたと思ったら、


「え…? パパニアンの子供か……?」


そうだ。しんが、パパニアンの子供、それも、まだ一歳になるかどうかっていう幼児を連れて帰ってきたんだ。


一歳と言っても人間よりは成長が速いから、人間で言うと二歳半から三歳くらいにも見えるが。


食べるためにというわけじゃなかった。しんも、パパニアンは襲わない。


なぜそうなったかという事情は、ドローンのカメラによって捉えられていた。


ほまれ達とは違う群れの子が、どうやらイジメられて逃げ出してきたらしい。しかしさらに追われてたところにめいが現れたことで、その子を追いかけていたパパニアン達は逃げ去ってしまい、結果として取り残されたのをめいが拾い上げ、さらにそこにしんが現れて、託されたというのが経緯だった。


めいしんは、特別仲が良かったわけじゃないが、かと言って険悪でもなかった。その頃のことをまだ覚えていたんだな。


マンティアンも、レオンに似たパルディアも、パパニアンにとっては恐ろしい天敵で、それは幼い子供でも知ってることだった。だから、めいしんに捕まった形になったその子は、恐怖のあまり固まってしまっていた。


するとその子を、屋根の上から様子を窺っていたあらたが下りてきて、しんからひったくるようにして連れてまた屋根に上ってしまった。


あらたの、パパニアンとしての仲間意識がそうさせたのかもしれないな。


しかし、これって結果としては<連れ去り>ってことになるんじゃないだろうか。


まあ、いいか。


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