明編 ストーカー

新暦〇〇二八年九月十八日。




昨日、めいに撃退された若いマンティアンが、なぜか性懲りもなく彼女の前に現れた。


だが、攻撃を仕掛けてくる様子はない。単にある程度距離を置いた状態で彼女の様子を窺っているだけだ。


「これは……めいのことをパートナーとして認めたってことでしょうね」


俺と一緒に映像を見ていたシモーヌが言う。


「ああ、なるほど」


と俺も納得しかけたが、


「でも、めいに負けたんだろう? なんでそれがパートナーとして成立する?」


疑問が口を突いて出た。


するとシモーヌは、


「たぶん、『生き延びた』からでしょうね。自身の強さを彼女が認めてくれたから自分は生き延びられた。それはつまり、『彼女からパートナーとして認められた』という認識になったのかも」


「あ~…なるほど。そういう解釈になるのか……


だが、それってストーカーの発想だよな……」


正直な印象だった。


「ですね。物事を自分に都合よく解釈して執着する。まさにストーカーのそれです。


ただ、野生の生き物の場合、パートナーを見付けて自身の遺伝子を残そうというのは人間以上に切実な話ですから、とにかくチャンスがありそうだとなれば何度でもアタックするのは当然でしょうね」


「確かに……人間の場合はとにかく数が多いから『別に自分が子孫を残さなくてもいいだろう』って考えることもできるが、野生の生き物はそうはいかない。チャンスは確実にモノにしないとって思うのも当然か……」


というわけで、しばらく様子を見ることにした。


で、めいの前に現れた若いマンティアンのことは、さくと呼ぶことにした。


まあ、字面の通り、『めいに迫ってる』からな。


そんなこんなで、さくは、それからもめいをしつこく追い回していた。


と言っても、本当に後ろを追ってるんじゃなくて、行く先々に現れる感じだが。


めいが現れそうなところで待ち伏せて、彼女の姿が見えれば近付いていくってところか。


どっちにしてもストーカー的行為には違いない。


もっとも、当然のことながら、めいはまったく相手にしない。近付こうとすれば威嚇して、それでも近付いてくればやっぱりぶちのめすだけだ。


が、とどめは刺さないのでしばらくするとまた現れる。


なるほど。自分を殺さないのは気があるからだと判断してるってところか。


もちろん、とどめを刺してしまうのが手っ取り早い対処法だろう。あまりしつこいとさすがのめいもキレてやってしまうかもしれない。


とは言え、それはむしろマンティアンとしては当然の対応なので、まさに、


『殺されたって文句は言えない』


って話だけどな。


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